塾の先生に、反復学習e-learning【KOJIRO】の説明をしていると、たまに「アプリですか?」と聞かれる。あるいは「アプリですね!」と目を輝かせられる。
「いえ、アプリではないです」と言うと「そうですか…」と、微妙にテンションが下がるのを感じて、私はちょっぴり残念な気持ちになる。
アプリサイトを開くと、数えきれないほどたくさんのアプリがある。オシャレなアイコンも多い。「楽しい!」「役に立つ!」というレビューを読んでいると、自分も試したくなってくる。ひとつのアプリを見たりダウンロードしたりすると、おすすめのアプリが表示される。つられて私は次々とアプリをダウンロードしてしまう。
私はだんだん、アプリを作ることがとっても良いことのような気がしてきた。
【KOJIRO】のアプリは「まだ」ないのか、「これからもずっと」ないのか。
私が中途入社してきた時には、既に開発が始まっていた【KOJIRO】。その頃から、「マルチデバイス対応」は計画にあったけれど、「アプリ化」は計画されていなかった。
<そもそも、なんで最初から作ってないんだろう…>
私は、自動車教習所専用のソフトウェアを開発している、別事業部の開発チームに目を向けた。
机には、たくさんの検証用の機器が置かれている。私はそれを見ながら、もし【KOJIRO】をアプリにしたら、開発チームにどんな作業が追加になるかを想像した。
【KOJIRO】のようなブラウザを使ったサービスや、企業のホームページなどのサイトには、「推奨環境」というのがある。「より安全で快適にご利用いただくために下記ブラウザにて表示確認・動作検証を実施しております」とか「お使いのブラウザはサポートされていません」とかいうアレだ。
【KOJIRO】の開発チームも、「推奨環境」の数だけ、細かい検証をしている。これがアプリ化も…となると、PC・タブレット・スマホの様々な機種、搭載されているOS(Android、など)、さらにブラウザまで含めたバリエーションに対してきちんと「動作保証」をしなくてはならない。
そのためには、これまで以上の開発と検証の時間が必要になる。もちろん、すべてコストがかかることだ。
<おそらく、莫大なコストになる…>
もちろん、コストをかけてもやるべきことはやるべきだ。しかし、コストが増えるということは、提供価格が高くなってしまうことに繋がりかねない。
値段が高くても価値があれば使ってもらえるが…
アプリ版のe-learningサービスは、「勉強が苦手な子ども」たちにとって価値あるものになるだろうか。せっかく作っても、使われなくては意味がない。オフラインで使えるアプリは、【KOJIRO】にとって本当に必要なのだろうか。
週末、実家に帰ると、姉が子どもたちを連れて遊びに来ていた。私がスマホをいじっていると、中学1年生の姪っ子が手元を覗き込んで「こないだのゲーム、またやらせて」と言ってきた。
「これは私の個人データが入ってるから、自分のスマホにインストールすれば?」
「だってアプリ制限がかかってるんだもん」
「ママそこにいるし、今お願いしてみたら? 一緒に頼んであげようか?」
「ダメだよ。 パパがいないと暗証番号わかんないんだって」
私は、はっとした。
そうだ。【KOJIRO】だって、アプリだったらこんな感じかもしれない。
せっかく塾に入って、IDとパスワードをもらっても、すぐにアプリをインストールして勉強を始められるとは限らない。子どもを守るための仕組みが、障壁になることもあるのだ。
アプリを作っても、【KOJIRO】の使われ方は今と変わらないかもしれない。
そもそもあの先生方は、なぜ「アプリ?」と言って目を輝かせたのだろう。私はやっと、先生の言う「アプリ」という言葉が、私の知るアプリ機能とは違う、何かしら別の「期待」を表しているのではないかと疑い始めた。
その日以降、私は「アプリですか?」と聞かれる度に、【KOJIRO】について回答するだけでなく、もう一歩踏み込んで質問をすることにした。
「あのぅ…私がお尋ねするのもアレなんですが、アプリって、やっぱりいいですか?」
「スマホのアイコンになってると、生徒も迷わないでしょう。 それにホラ、アイコンになってると見た目もカッコイイですし…」
「確かに、アプリって魅力的ですよね。オフラインでも使えて便利ですし。…リアルタイムよりそっちを優先したいというご要望があるということでしょうか?」
「いや、そこはリアルタイムじゃないと困りますね。実際は勉強してるのに、こっちではポイントが増えていないと思って『今日こそログインしようね』なんて電話したら、生徒のモチベーションが下がりますから」
恐る恐る聞いてみると、アプリでなくても叶えられる「期待」が見えてきた。
例えば「アイコンで迷わずサイトに誘導したい」のであれば、PCのデスクトップやタブレット・スマホのホーム画面にショートカットを作ればいい。むしろ、アプリでは「リアルタイム学習履歴の管理」という【KOJIRO】の強みが危うくなってしまうということもわかった。
教材もカリキュラムもサポート機能も、常に最新の状態で生徒さんに提供したいとなると、アプリの更新の度に生徒さんひとりひとりが操作をせねばならず、勉強に集中するには障壁になるだろう。
【KOJIRO】のミッション は「勉強が苦手な子」の勉強のハードルを低くすることだ。しかし、これでは道具が新たなハードルになってしまう。
私はやっと結論に辿り着いた気がした。「e-learning=アプリ」じゃない。「スマホ=アプリ」でもない。アプリは万能薬ではないのだ。
<【KOJIRO】はアプリ化せずにブラウザタイプを継続しよう!>
【KOJIRO】は、「勉強が苦手な子」たちと勉強とを繋ぐ「橋」だ。私は【KOJIRO】の企画リストから、「アプリ化」を外すことにした。【KOJIRO】が「勉強が苦手な子」にとって、本当に役立つe-learningであり続けるために。
ricoのイマサラ確信は続く…