e-learning【KOJIRO】には弱点がある。
それは「e-learningだということ」。
つまり、ログインしてもらわなければ、そのよさは伝わらないということだ。
商品企画の私はこれまでも、e-learning【KOJIRO】で、より効果的に学習ができるように機能を改善したり、リスニングの反復学習を新しく加えたり、指導される先生方の負担を減らす機能を追加したりしてきた。
e-learning【KOJIRO】が「毎日取り組みたくなる」e-learningになるためには、現場の先生方へのヒアリングが欠かせない。
rico:「ログインしてもらうためには、子ども達が魅力を感じないといけませんよね?」
先生:「着せ替えアバターとか、すごくいいと思いますねぇ。生徒達のやる気に繋がります」
rico:「アバター…なるほど。そういう『お遊び』の要素も必要ということですね」
先生:「勉強の邪魔をしない程度には、ですね。勉強を頑張ればアバターがオシャレになり、豪華になる…それは生徒達もとっても喜ぶと思います」
私は、喜んでくれる生徒さん達の表情を想像した。
e-learning【KOJIRO】は、勉強が苦手な子ども達のために、4択式や5問ずつの出題、アニメ、ポイント制など、随所に工夫を凝らしている。アバターが加われば、さらに魅力的になるのは間違いない気がした。私はワクワクしながら、企画リストに「着せ替えアバター」を追加した。
しかし、残念ながら、着せ替えアバター企画はすぐにスタートできなかった。既に予定されている改修や、学習に直結する機能の開発を優先するために、私はアバター企画を後回しにせざるを得なかったのだ。
アバター=「お遊び」 ということで先生方も納得はされていたが、お会いするたびに「まだですか?」「そろそろですか?」と聞かれた。私は「近々、必ず」とお約束しながら、なかなか実現できないもどかしさを感じていた。
年度も変わり、いよいよアバター企画を形にする時がやってきた。
e-learning【KOJIRO】では、学習して貯めたポイントをG(ゴールド)という仮想通貨に変換し、それを使って自分の身代わりのようなアバターに洋服を買ってあげられる…そんな仕組みにしようと考えていた。
制作会社には、たくさんの大きなアバタープロジェクトに関わった実績があった。私はそれをとても心強く思ったし、制作物のディテールや対応からも、彼らがアバター制作のプロだということはわかるのだが、過去の事例をいくら見せてもらっても、どれもいまいちピンとこない。
プロの方々に対して、私はせいぜい、「こういうもの」くらいの依頼の仕方でよいのかと思っていたが、「アバターは人間の形にするか?」に始まり、「どれくらいの大きさか」、「何頭身のバランスにするか」、「体の向きはや表情はどうするのか」、「男女の区別はつけるのか」…など、事細かに決めなくてはいけないらしい。
<どうやったらe-learningにふさわしいアバターにできるんだろう…>
学習コンテンツや学習効果についてなら、かつての家庭教師時代や先生方との交流から学んだ経験があるが、着せ替えアバターのような「お遊び」部分については、私はまったくの素人だ。
<実績ある制作会社さんだから、何か成功の秘訣があるのだろうと思ってた…>
e-learningの商品企画担当が、「お遊び」のアバター機能の仕様なんて、果たして決められるのだろうか。
その週、私はたまたま見つけたe-learningに関する講演の聴講に出かけた。e-learningの進んでいる海外の大学の事例も聞けるというので、会場は結構な人数がいた。
講演が終わると、大学教員をされているという方から質問があがっていた。
「素晴らしいコンテンツの作り方についてのご講演を、どうもありがとうございます。私の悩みなのですが、どうやったら学生たちをe-learningに向かわせることができますか?」
おお! まさに私が今知りたいことじゃないか!
私は思わず息をとめて、講演者の方に身を乗り出した。
講演されていた先生は、ゆっくり頷き、一語一語を確かめるように話し出した。
「私には、正確にお答えすることができません。対象の学生ひとりひとりについて細かく知らなければ、正しい答えは出ないからです。答えはあなたの学生の中にあります。学生たちに聞いて下さい。口頭でも、アンケートでもいいのです。答えは彼らの中にあります」
私は大きく息を吸って吐いた。
そうか。商品企画というのは、これまでにないものを創り出すということだ。制作会社の過去の事例・実績を見ても、ピンとこなかったのはこのためだ。
答えは、【KOJIRO】を使ってくれている子ども達の中にあったのだ。
私は急いでアバターに関する調査アンケートを計画・実施することにした。
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誰に回答をお願いしようか?
今使ってくれている子ども達に直接選んでもらおう。
<e-learning【KOJIRO】を使う人にピッタリなアバターを作りたい>
どんなアンケートにしようか?
いくつかアバターのイラストを見て、「選んで丸をするだけ」の質問にしよう。
<子どもでも答えやすいアンケートにしなくては、正確な回答が得られない>
どんなサンプルから選んでもらおうか?
からだの大きさ、顔つき、雰囲気がバラバラな9種類から「2つ」選んでもらおう。
<そのまま採用するのではなく、好まれる傾向が知りたい>
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短い期間だったが、あっという間に1,000名以上の回答データが集まった。急いで集計し、子ども達から好まれるアバターの傾向をあぶり出す。
皆から選ばれたアバターの特徴から、どのサンプルでもない、2.5頭身の丸っこい、e-learning【KOJIRO】オリジナルアバターが誕生した。
「アイテムのカテゴリーはどう分けるのがベストか」、「アイテムの価格設定はどうするのか」、「スカートは女子しか着られないようにするのか」…アバター機能の仕様決定は、まだまだ続く。アバターを待ち望んで下さる先生方、子ども達の声を励みに、私は制作会社との細かいやり取りを続けた。
アンケート実施から約8か月後、300以上のアイテムを携えて、e-learning【KOJIRO】のアバター機能はスタートした。
着せ替えアバターを開始してから約2か月半が経った。
私はアバター使用状況を全体データから確認した。入手可能な価格設定としているアイテムの95%以上が「購入」されている。みんな、自分の学習で稼いだ大切なG(ゴールド)を使ってくれているのだ。
現場の先生からも、現場が盛り上がっているとの感想をたくさん頂いた。
「今度はコレを買うんだ、と言って、楽しそうにポイントを貯めている子もいますね。皆、一通り試してみたら、値段の高いアイテムを狙っているようです」
先生の言葉に、私はアバターの存在意義みたいなものを感じた。アバターは、e-learning【KOJIRO】で反復学習を継続するための「小さな励み」になっているのだ。
振り返ってみると、見た目と違って、着せ替えアバターはちっとも「お遊び」ではなかった。子ども達のモチベーションを支える、重要な機能のひとつだったのだ。私は自分がe-learningの重要な機能をカタチにできたことを実感した。
(これからも、喜ばれて役立つ機能を生み出していこう…)
e-learning【KOJIRO】はこれからもパワーアップするのだ。私はワクワクした気持ちで次の企画に取り掛かった。
ricoのやる気は続く…