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ソルクシーズで働く人々

KOJIRO担当日記【6】前例がない!

ソルクシーズで働く人々

企画資料から目をあげた部長は、
少し硬い表情をしていた。

<やっぱり、即OKとはいかないか……>

想定通りの展開に
私は大きく息を吸って、吐いた。
そんな私に、部長が尋ねる。

「リスニングコンテンツは……本当に必要ですか?」

私の頭の中には、
入社した頃に聞いた部長の言葉がよみがえった。

『システムで一番悲惨なのは、
せっかく作っても使われないことなんだ』

まさに今、部長の頭の中には、
新しいコンテンツが皆さんに使ってもらえるか、
その確信が持てず、心配が渦巻いているのだろう。

私はまず頷き、昨今のリスニング事情から説明を始めた。
ここに至る道筋を思い返しながら。

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それは週の半ば、
塾の先生方と打合せをしている時だった。
英語の先生が手を挙げた。

「英単語問題に発音を確認できる機能を
付けられないでしょうか?
どの英単語がどんな発音か、
わかっていない子が多いんです」

聞けば、初歩でつまずいている生徒さんほど、
英単語の綴りと発音を合わせて学習することが必要とのこと。
しかし、個別指導塾では
なかなかそこまで指導できていないと言う。

状況を聞きながら、私は解決案をイメージし始めた。
商品企画が「御用聞き」ではいけないことは、
そろそろ私にもわかってきた。

言われたことをそのまま
すぐに形にしたにもかかわらず、
「使いにくい」と言われたこともあった。
苦い経験だけれど、重要な学びだった。

今回も、英単語に発音をつけるだけ、というように
言われたままに建て増しをするような企画では、
真に効果の高いe-learningにならないような気がした。
私は少し勇気を出して尋ねた。

「先生、英単語の発音を確認できるだけでなく、
リスニング対策問題まで反復学習できるようになったら
いかがでしょうか?」

すると、先生はパッと顔を輝かせた。

「それはもう、最高です!
個別指導の幅が広がります!」

その表情を見た時、私は新しい企画、
初めての、自分自身の企画の予感がした。

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その後、数週間かけて、
私は企画の骨子に必要な情報を集めてまわった。

ネットで検索し、海外のe-learningについても調査したり、
塾や学校の英語の先生に片っ端からインタビューしたり……。

私は、自分が知る頃よりもさらに難しくなった
リスニング問題のレベルの高さに驚きつつ、
集まった情報と参考文献を元に、
まずはコンテンツチームと協議し、
続いて、開発と打合せを重ねた。

予想外に時間がかかったが、
最終的に、リスニングコンテンツとしては
3種類の問題を追加することで、企画骨子をまとめた。

(1)英単語の発音を確認できる「サービス音声」
(2)重要構文を耳で反復学習する「基礎力向上リスニング問題」
(3)いわゆるリスニング問題のための「リスニング対策問題」

リスニング中

<よし! 次の定例会議で、部長に提案しよう!>

私は勢いよく企画書を書きあげた。
コンテンツ、機能、予算、スケジュール……

しかし、書き上げた企画書を見直しながら、
私はふと、完璧だったつもりの企画が、
部長に却下されたあの日を思い出した。

<あの時は、聞く姿勢を持てるようになりたくて、
自分を変えるためにNLP手法を使ったんだっけ……>

今回の内容については、聞く姿勢も大事だが、
前例のないサービスの企画を説明する力が必要だ。

自らの問題点を解決する時に学んだNLPは、
誰かの視点を変えさせる説得にも、使えるかもしれない。

私は、NLPの本を手に取り、久しぶりにその第一章を開いた。
読み返していると早速、ある文章が目にとまった。

『1.プログラムは体験によって作られる』

<つまり、部長の判断基準は、部長の体験から成っている……>

例えば、企画に反対されたとしても、
反対された事実を、ただ受け止めるのではなく、
相手の体験の積み重ねを想像し、
自らの判断基準となった体験を丁寧に説明すれば良いのだ。

肩の力が抜けるような気がした。
私はそっと本を閉じると、これまでの自分の体験を振り返った。
勝負は、週明けだ。

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月曜の定例会議、部長の前には、
コンテンツ、機能、予算、スケジュールなどの資料が並んだ。
企画の全容を一通り聞いた部長は、資料をじっくり見た後、
ゆっくりと口を開いた。

「リスニングコンテンツは……本当に必要ですか?」

眼鏡の奥にある、部長の目が光る。
学生時代にリスニング試験がなかった世代の部長にとっては、
e-learningの反復学習と、リスニング問題をつなぐような
体験がないのかもしれない。

私はまず頷き、自分が見聞きしたものの説明に入った。
まずは、先生から伺ったり自分で調べたりした、
昨今のリスニング事情だ。

「英検等の資格試験はもとより、今や公立高校の入試でも、
難易度の高いリスニング問題が出題されています。
英文法の知識や単語力だけで解けるレベルではありません」

次は、利用する生徒さんの目線からだ。

「リスニング用の問題集はたくさん出版されていますが、
多くは問題数がそれほど多く収録されていません。
また、CDを再生したり一時停止したりすることは、
生徒さんや先生にとって、非常に手間がかかる作業です」

最後は、なぜ当社がリスニングコンテンツを提供することが必要か。

「本などでリスニングを学習する従来の方法と比べ、
より手間を減らし、英文の聞き取りに集中してもらえます。
これは、ITならではのサービスで、当社が提供する価値があります」

部長からは質問が二つ三つ出たが、
それらにもスムーズに回答した。
確認が済んだのだろうか。
部長は思案しているような顔から、いつもの表情に戻った。

「それでは、来月の役員会議にかけましょうか。
稟議書の作成をお願いします」

それは、企画の第一関門突破の瞬間だった。

<やった! 通った!>

内心ガッツポーズ

内心ガッツポーズの私に向かって、
「そうそう」と、部長が続けた。

「この資料のデータ一式、
僕からもアクセスできるようにしてくれる?」

怪訝な顔をする私に、部長は補足した。

「宣言されたスケジュール通りに、本当にやっているか、
あとで上司としてチェックするためです」

<しまった……!
もっと余裕のあるスケジュール案にすればよかった……>

ニンマリ笑う部長を前に、
私は、自身の企画が通るということの
嬉しさと大変さに、やっと辿り着いたのだった……。

ricoの商品企画は続く……。

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