サービスの検討が始まったのは2023年3月、システム開発のスタートは7月。2023年11月に開催された「EdgeTech+ AWARD 2023」で生成AI優秀賞を受賞した「CoBrain(コブレイン)」は、ソフトウェア開発の要件定義書や要求仕様書の添削という斬新な視点とともに、スピーディーなサービス立ち上げも評価されました。
要件定義でありがちな「ヌケモレ」「曖昧な記述」「矛盾」などを生成AIがすばやくチェックし、適切な記述方法をガイドしてくれる「CoBrain」は、定義書の質を高めるとともに、レビューの効率化を図ることができます。
サービス開発のプロジェクトを推進したのは、株式会社エクスモーションでコンサルタントとして活躍する内田圭さん。USDMを用いた要求定義は専門分野で、自動車メーカーなどのソフトウェアエンジニアを対象としたトレーニングの講師も務めています。
生成AI関連の新サービスとして注目された「CoBrain」は、2024年6月にβ版をリリースし、翌月には無料トライアル版の提供を開始しました。さまざまな企業と技術者の利用状況を検証し、正式リリースに漕ぎ着けたのは11月。2025年2月には「Wordアドイン」という新機能が追加されています。
開発スタートから正式リリースまで1年5ヵ月、さらに3ヵ月で新機能提供という迅速なアクションのなかで、内田さんは何を考え、どんな未来を描いたのでしょうか。「CoBrain」が世に出てから、「Wordアドイン」の実装に至るまでのプロセスと、今後の見通しについて聞きました。
「β版をリリースして、実際のお客様に使っていただいてわかったのは、エクスモーションが提案しているUSDM※を活用していない企業が多いことでした。USDMという”奥の隠れ家”に行けば要件定義の質が上がるといわれても、忙しい会社や課題を認識していない組織はすぐには導入できないので、”手前のお店”が必要です。より多くのエンジニアに、要件定義はこうすれば精度があがるという体験をしてもらうためにリリースしたのがWordアドインです」
※Universal Specification Describing Manner:正確な要求仕様を定義するための技法
USDMを活用しているお客様にヒアリングをすると、「要件定義書を作成した後に、セルフチェックできるのがいい」「プロジェクト内のレビューで、本筋ではない部分の指摘がなくなったのがうれしい」「過去の対面レビューの指摘と7,8割が重なる」といった実感のこもった声が挙がってきました。その一方で、「Word版があったら試したい」という企業も多く、何らかの打ち手が必要だと気づかされたそうです。
「コンサルタントとしては、『CoBrain』を活用して要件定義の品質向上を図りながら、USDMを広く浸透させていくことが大事だと考えています。しかしビジネス成長の視点では、既存のUSDMのユーザーへのサービス提供だけでは、価値向上に限界があるため、新たな顧客層の開拓も検討する必要があります。エクスモーションの顧客を増やし、ビジネスをスケールさせるためには、Wordへの対応は必須だと考えました」
USDM形式の文書だけでなく、Wordで作成された自由形式の要件定義書もレビューできる「Wordアドイン」によって、「USDMの導入は考えていない」「いきなり定義書のフォーマットを変えるのは難しい」「まずは目の前の業務を効率化したい」という企業や組織もターゲットになります。
「いわゆる要件定義書は、設計につなげる仕様を書くのですが、その仕様がなぜ必要なのか、どんなニーズに応えるのかが書かれていないものも多いんです。根拠や裏付けがないと、仕様だけが伝言ゲームのように送られて、『作ってみたら思っていたのと違うものができた』となることもあります」
「そういう失敗を経験した人たちが、目的や要求と仕様を結びつけるUSDMに興味を持つのですが、要件定義に課題認識がない企業も多く、そもそもドキュメントがないという組織もあります。そこに対して、USDMで質を高めましょうといきなり誘導するのは無理があります。要件定義を進化させるユーザーストーリーを描いて、点を線にしていかないといけないと気づいたのが、β版を通じてさまざまな声を聞いて得た収穫でした」
現場のニーズに応え、多くのエンジニアが入れるゲートを作った「CoBrain」は、ここからどんな進化を遂げるのでしょうか。【後編】では、内田さんが考える人間と生成AIのあり方や、「CoBrain」の未来について聞いていきます。