コロナ禍によって生活とビジネスが大きく変わり、ITトレンドの動向にも変化が生じています。2021年の代表的なトレンドをわかりやすく紹介するシリーズの第2回は、「エッジAI」。ユーザーの近くでデータ処理を行う「エッジコンピューティング」と、「AI」を組み合わせた技術です。
まずは、「エッジAI」の概念について整理しておきましょう。「エッジ」はシステムの「端」という意味で、スマートフォン・PC・IoTデバイスなどの端末とその周辺を指します。エッジコンピューティングの技術を活用すれば、これまでシステムで集中的に行っていたデータ処理をエッジに分散して、通信やデータ処理の負荷軽減や高速化を図ることができます。
エッジAIは、その名の通り「エッジとなる端末に搭載されているAI」です。従来のクラウドAIでは、端末から送信された全データをクラウド上のAIにより処理していました。当然ながら、大量のデータが集中するとクラウドが圧迫され、大きな負荷がかかってしまいます。
これに対して、データを端末周辺に分散させるエッジAIは、ユーザーに近い位置でさまざまな処理を行うためシステムの環境に左右されにくく、リアルタイム性も確保できるのです。
エッジAIが注目されている背景として挙げられるのは、ネットワークのトラフィック増加です。
5Gに対応できるエリアが拡大すると、大量の端末がネットワークに接続されるようになります。IDC Japanは、2025年にはデータの発生量が全世界で163ゼッタバイト(163兆ギガバイト)に膨れ上がると試算。この数字は、2016年の約10倍です。
コロナ禍でテレワークが普及し、自宅でオンラインコンテンツを楽しむ人が増えたことも通信量の急速な拡大に拍車をかけており、リアルタイム性を担保するためにはデータ処理量の分散は必須となります。
エッジAIの活用が期待されている領域のひとつとして、自動運転があります。エッジAIなら、カメラやセンサーが取得したデータを瞬時に分析して自動車を制御できるため、タイムラグの発生による事故の防止につながります。自動車だけでなく、ドローンにも応用可能な技術です。
あるいは工場で使われる機器・設備においても、不具合やトラブルの可能性をスピーディーに察知することで予知保全ができるようになります。
情報処理をローカル環境内で行えるエッジAIは、金融サービスなどセキュリティが重要な分野でも効果的です。顧客情報やセキュリティチェックの際の生体認証データなどをクラウドに送信する必要がないため、より安全なサービスを実現できます。
5Gの普及に伴い、ニーズが急速に高まっていくと見られているエッジAI。近い未来、さまざまな領域で新たなサービスやコンテンツに活用されていくはずです。IoTやクラウドサービスに携わるシステムエンジニアにとっては、欠かせない技術となるのではないでしょうか。