DXで日本のビジネスをサポート|ソルクシーズ公認ブログ

ソルクシーズがめざす未来

「プレゼンティーイズム」を予防・回避する企業の健康経営の取り組みに注目!

ソルクシーズがめざす未来

就活生や転職希望者が企業を選ぶポイントとして、最近注目を集めているのが「健康経営」です。健康経営とは、企業が「社員の健康管理」を経営課題のひとつと捉え、さまざまな取り組みを戦略的に実行することを指します。

これは社員の心身の健康増進はもちろん、健康保険料の負担軽減、休職率・離職率の低下、モチベーションや生産性向上、ブランドイメージの向上など、企業に多くのメリットをもたらします。

この健康経営が重要視されるようになった背景には、WHO(世界保健機関)が提唱する「プレゼンティーイズム(疾病就業)」という概念があります。プレゼンティーイズムとは、欠勤や休職をするほどではないものの、心身が不健康な状態で仕事に従事することで、パフォーマンスの低下を招く現象です。この見過ごされがちだった問題が、実は企業に大きな損失を与えていることが明らかになり、健康経営の必要性が高まっているのです。

プレゼンティーイズムとアブセンティーイズムの違い、そして経済的損失

プレゼンティーイズムを理解する上で、比較されるのが「アブセンティーイズム」という概念です。アブセンティーイズムは、心身の不調が原因で「欠勤」や「休職」、「遅刻」、「早退」を繰り返す状態を指します。これは企業の勤怠管理データに現れるため、「目に見える損失」と言えます。

一方、プレゼンティーイズムは「仕事には来ているが、集中力や生産性が低下している状態」です。この状態は、本人にも自覚がないことがあり、また目に見えにくいため、これまで問題視される機会はほとんどありませんでした。しかし、従業員のパフォーマンスが低下することで企業が被る損害は、実はアブセンティーイズム以上といわれています。

厚生労働省が発表した「データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドライン」によると、企業の健康関連総コストのうち、77.9%がプレゼンティーイズムによるものとされています。この数字はアブセンティーイズムの17倍以上にもなり、医療費(15.7%)や傷病手当(1.0%)、労災給付金(0.9%)などと比べても、企業のコスト負担が非常に大きいことがわかります。(※1 出典は記事末尾)

また、横浜市立大学大学院国際マネジメント研究科の原広司准教授と、産業医科大学産業生態科学研究所の永田智久准教授との共同研究(※2 出典は記事末尾)では、プレゼンティーイズムによって日本の企業が年間約7.6兆円もの損失を被っていると推計されています。このデータが示すように、企業の生産性向上や健康関連コストの削減を図るためには、プレゼンティーイズムの改善につながる健康経営が必要不可欠なのです。

プレゼンティーイズムの具体的な症状と原因

プレゼンティーイズムは、個人の健康問題だけでなく、職場環境にも大きく影響されます。その原因は大きく身体的な不調と精神的な不調に分けられます。

<身体的な不調>

頭痛、腰痛、肩こり、眼精疲労

長時間のデスクワークや不適切な姿勢が原因で、集中力や作業効率が低下します。

睡眠不足

疲労回復が遅れ、日中の眠気やだるさを引き起こし、思考力や判断力を鈍らせます。

消化器系の不調

ストレスや不規則な食生活による便秘や下痢、食欲不振などは、身体全体のだるさにつながります。

動悸・息切れ

ストレスや不規則な生活が自律神経のバランスを崩し、心身の不調を引き起こします。

<精神的な不調>

ストレス、疲労感、うつ病など

職場での人間関係の悩みや、仕事への過度なプレッシャー、将来への不安は、従業員の心の健康を蝕んでいきます。

仕事への意欲・働きがいの喪失

自分のスキルや適性に合わない業務や、自分の仕事が組織に貢献していると感じられない状況は、従業員のモチベーションを著しく低下させます。

これらの不調は、やがて「疲れがとれない」「集中力が続かない」「仕事の効率が上がらない」「イライラしやすくなった」といったプレゼンティーイズムの自覚症状として現れます。

職場環境が引き起こすプレゼンティーイズム

プレゼンティーイズムの背景には、個人の健康問題だけでなく、組織が抱える課題も大きく関わっています。以下のような環境は、従業員の心身の不調を招きやすいとされています。

長時間労働や過度な残業

慢性的な疲労や睡眠不足を引き起こし、集中力や判断力を低下させます。これが習慣化すると、気づかないうちにパフォーマンスが落ちていきます。

不適切な人間関係

上司や同僚とのコミュニケーション不足、ハラスメントなどは、精神的なストレスの大きな要因となります。相談できる相手がいない孤立した環境では、従業員はより不調に陥りやすくなります。

物理的な職場環境の不備

室温や湿度が適切でない、照明が暗い、騒音が多いといった環境は、身体的な不調を引き起こします。快適でない空間では、集中力を維持するのが難しくなります。

仕事内容の不一致

個人のスキルや適性に合わない業務、または仕事のやりがいを感じられない状況は、従業員のモチベーションを低下させます。これにより、仕事に対する意欲がなくなり、生産性の低下につながります。

これらの課題を解決するためには、企業が積極的に介入し、従業員一人ひとりが健康に働ける環境を整える必要があります。

企業が直面するプレゼンティーイズムの深刻な影響

プレゼンティーイズムは、個人のパフォーマンス低下にとどまらず、企業全体に甚大な影響を及ぼします。その主な影響は以下の3つです。

生産性の低下とミスの増加

プレゼンティーイズムは、従業員の業務遂行能力を低下させます。集中力や判断力が鈍り、タスクの完了に時間がかかったり、ミスの増加につながったりします。これにより、組織全体の生産性が低下し、企業が本来得られるはずだった利益を失うことになります。

コストの増加と経済損失

健康状態が良好な人と比較すると、プレゼンティーイズムにより生産性が30%以上も低下することもあるそうです。この損失は、アブセンティーイズムのコストをはるかに上回り、企業の収益に直接的な打撃を与えます。

組織全体のモチベーション低下と人材流出

一部の従業員のパフォーマンスが低下すると、他の従業員の負担が増加し、組織全体のモチベーション低下につながることがあります。また、健康問題が放置される職場は、従業員のエンゲージメントを損ない、離職率の増加を招く可能性も高まります。離職者が増えれば、新たな人材の採用や教育にコストがかかり、さらに企業経営を圧迫することになります。

これらの影響を考慮すると、プレゼンティーイズムの対策は、単なる福利厚生ではなく、企業の持続的な成長に不可欠な経営戦略であるといえます。

プレゼンティーイズムを改善する健康経営の取り組み

企業が生産性向上や健康関連コストの削減を図るためには、プレゼンティーイズムの改善につながる健康経営が必要不可欠です。健康経営には、従業員の心身の健康を多角的にサポートするさまざまな取り組みが含まれます。

これまで漠然と捉えられてきたプレゼンティーイズムですが、近年は主観的な健康状態や生産性を客観的に評価するためのさまざまな測定ツールが開発されています。ツールを用いることで、企業は従業員のプレゼンティーイズムの現状を正確に把握し、効果的な対策を講じることができます。

日々の生活習慣や職場環境の乱れは、身体的な不調を引き起こす大きな要因のひとつです。近年、次のような施策を講じて従業員の身体的な健康をサポートする企業も少なくないようです。

・定期的な健康診断とアドバイス

定期的な健康診断を行い、医師などの専門家からの助言を受けることは社員の持つ潜在的な生活病やその他の大病(がんなど)のリスクをケアし、予防や早期発見につなげるための最も有効な取り組みの一つです。

・ヘルシーな社食・健康食品の提供

健康的な食事をサポートするため、社員食堂でのヘルシーメニューの提供や、オフィスでの野菜ジュース・健康食品の提供などが有効です。適切な栄養摂取は、身体の不調を軽減し、集中力の維持に繋がります。

・運動促進のキャンペーン・レクリエーション

社内でのレクリエーション活動で運動を行ったり、会社全体で「歩く」を奨励したりすることでパフォーマンスが向上することがあります。これは運動が脳の活性化を促すほか、睡眠の質も向上させるためです。

・睡眠環境の改善

睡眠の質は、人間のパフォーマンスに直結する大事なファクターです。社会人の不眠は深刻な問題であり、残業時間の削減・仮眠スペースの設置・業務の持ち帰り防止など、「働きすぎ」を防止する取り組みが組織全体のパフォーマンス向上につながることを念頭に入れて呼びかけを行うといいでしょう。

精神的な健康をサポートする取り組み

かつての団塊世代のように「組織への帰属意識・貢献」が美徳とされる価値観は今や古いものとなり、Z世代以降は「自己の権利意識」を最重視する価値観へとシフトしてきました。そんな彼らにとっては、古い慣習や価値観が大きなストレスとなってしまう場合があります。ジェネレーションギャップは年代の違う社員の間に溝を生み、業務効率を大きく落とす原因にもなりえます。ここからは、相互理解のための取り組みを紹介します。

・メンタルヘルスケア

定期的にヒアリングシートを用いたストレスチェックや、専門家を招いてのカウンセリングなどを実施することで、社員たちの潜在的なストレスを顕在化する取り組みは重要です。これらは社員の精神的孤立を防止する役割もあり、悩みを相談しやすい・打ち明けられるという社内の雰囲気を醸成する効果もあります。

・コミュニケーションの活性化

部署や役職の垣根を超えたランチミーティングや交流会を実施し、若手とベテランの間で円滑なコミュニケーションを取れるようなムードを醸成します。コミュニケーションの活性化は業務における伝達効率向上が見込めるだけでなく、感情面でのトラブルの予防にもつながります。

ただし、Z世代以降はプライベート時間を削られる“飲み会”を避ける傾向があるため、あくまでも会社の取り組みとして会話をする機会を設けることが大切です。

・働き方の柔軟化

フレックスタイム制やテレワークの効果的な活用は、働き方の柔軟性を高め、全体の効率を底上げします。通勤のストレスは、慢性的な疲労感やパーソナルスペースの侵害による強いメンタルヘルスへの影響があり、パフォーマンスの低下を引き起こすことがあります。フレックスタイム制やテレワークと出社をうまく組み合わせることによって、それぞれのいいとこ取りができれば、業務効率化が図れる可能性が高まるでしょう。

・キャリア形成の支援

個々のキャリアプランや志向に寄り添った研修や資格取得支援、カウンセリング、ジョブローテーション制は社員のモチベーションアップに大きく貢献します。近年は若手社員の昇格に対するモチベーションの低さが問題視されており、彼らの心を動かすためにも、「キャリアプランの具体化」「自身のスキルにあった業務設計」は重要なサポートのひとつといえます。

健康経営は企業価値の向上とSDGsにつながる

SDGs(持続可能な開発目標)が注目されるようになり、企業の社会的責任が注目されるようになりました。健康経営は、社員のためだけでなく、消費者や取引先から見た企業の将来性やブランドイメージを左右する重要な要素となっています。

健康経営を推進する企業は、社会から高く評価され、優秀な人材からも選ばれる存在になります。就職・転職の際に、企業が「健康経営」を推進しているか否かは、より重要なチェックポイントになっていくでしょう。

企業やオフィスの環境がどの程度健康的かを評価する上で、経済産業省が公開している「健康を保持・増進する7つの行動」というチェックシート(※3)が参考になります。このチェックシートには、プレゼンティーイズムとアブセンティーイズムの解消という観点から、下記の17項目が記載されています。

快適性を感じる

1 .自分の体に合わせて椅子の機能を調節している

2 .室温が快適である

3.作業面が十分に明るい

4.タバコや強い香水など不快な臭いを感じない

5.自分の居場所が確保されていると感じる

コミュニケーションする

6.雰囲気が友好的である

7.周囲の人の仕事の内容を把握している

8.いつも挨拶をしている

9.よく笑う機会がある

休憩・気分転換する

10.仕事の合間に雑談することがある

11.仕事の合間に机や身の回りの整理整頓をすることがある

12.昼休みは規定通りしっかり休んでいる

13.離席するのに周囲の人に気を使わない

体を動かす

14.オフィス内をよく歩いている

適切な食行動をとる

15.仕事中に間食を時々摂っている

清潔にする

16.手洗い、うがいをしている

健康意識を高める

17.自分の健康状態をチェックしている

これらを意識すれば、オフィス環境、社員のコミュニケーション、働き方や各種制度などを客観的に評価し、改善していくことができます。「快適な環境で健康的に働き続けたい」「将来性の高い企業に就職・転職したい」という方は、自分に合う企業を選ぶ際の参考にしてください。


出典
※1:厚生労働省保険局「データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドライン」第2章の「4 コラボヘルス=健康経営の事例」の(図16)
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12401000-Hokenkyoku-Soumuka/0000171483.pdf

※2:「The Impact of Productivity Loss From Presenteeism and Absenteeism on Mental Health in Japan」
https://www.yokohama-cu.ac.jp/news/2025/20250611hara.html

※3:『健康経営オフィスレポート』 経済産業省 (の最終ページ)https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/kenkokeieioffice_report.pdf

※この記事は2025年4月24日に公開した記事を再編集しています。

タイトルとURLをコピーしました