「転職しようかな…」。営業もシステムエンジニアも、事務も企画も、会社に勤めるほとんどの人が一度は考えたことがあるでしょう。
今回のシリーズは、かなり本気で転職を考えながらも踏みとどまった人たちのインタビューです。
「最初に思い詰めたのは、28歳の時でしたね」と語るのは、会計関連のパッケージ開発ひと筋でキャリアを積んできたSさん。新しいサービスの担当を命じられたのがきっかけだったそうです。
「いわゆる氷河期世代で、就職の厳しさを味わっていたのですが、入社7年めに後発のサービスを売れるようにしろといわれたときには転職しようかと思いました。それまでの仕事がうまくいっており、誇りをもって取り組んでいたので、青天の霹靂でした。勝ち方が見えないプロジェクトをやり遂げる自信がなかったんですね」
担当変更の話を受けるか、さもなくば転職するか。
システム開発を手伝ってくれていた会社に「退職することになったら、雇っていただけますか?」というぐらい真剣ではあったものの、最後に思い留まりました。「飛び出す勇気がなかっただけです」。結局、プロジェクトはうまくいかず、兼務していたSさんは元の仕事に戻ることになりました。
「それからずっと、転職を考えることはなかったのですが、昨年久しぶりにそんな気持ちになりました。いろいろなことが重なったんですよね…」
大規模なプロジェクトを担当し、2年続けて営業目標をクリアしたのに、昇給や昇格が思うような内容ではなかったこと。その後、新たに担当した仕事が大変だったこと。モチベーションが下がっていたSさんに、取引先のシステム開発担当が定年で退職するという話が聞こえてきました。
「Googleに“取引先 転職”と入力して、いろいろ調べたんです(笑)。向こうにいったらどうなるのか、どんなリスクがあるのかと真剣に考えました。給料は上がりそう。蓄積してきた知識は活かせる。一方で、その会社のシステムを幅広く管理しなければならない。入社以来、同じ会社で専門性を追求してきた人間が通用するのだろうか?」
高い期待に応えたいという気持ちよりも、転職に対する恐怖感のほうが強かったというSさん。「本気で考えたら、今いる職場のよさも見えてきたんです。仕事のやりやすさとか、居心地のよさとか。ここにいるから自分の社会に貢献できるOUTPUTが最大化できているのかな、と」。
残ると決断したきっかけは、新オフィスへの引っ越しと組織変更でした。所属する部署が大きくなり直属の部下ができたことによって、今後に期待できると思えたのでした。
「この先も、転職を考えることはあると思います。昨年の私は思い留まりましたが、未来の私がどう判断するかはわかりません。人から相談されたら、転職したいと本気で思えるならチャレンジしたほうがいい、自分の思うままにやればいいと言うでしょうね」
Sさんは「自分が生み出せる価値」という考えに加えて、「環境の変化」という運も働いて転職を踏みとどまりました。
疲れたとき、自分の居場所や未来が見えづらくなったとき、少し立ち止まって自分の立ち位置を俯瞰して見てみると、所属する会社や組織のよさも、自分の強みも限界も、フラットに整理できるのかもしれません。