予定もない雨の週末、物思いにも飽きてテレビをつけると、クイズ番組が流れてきた。クイズ番組が嫌いではない私は、そのまま次の問題を待ってみることにした。
『問題:日本で一番、流域面積が広い川は?』
<おっ、知ってる! 利根川!>
地理が大の苦手だった私も、地方から東京を経て、千葉に落ち着けば、利根川は身近な存在だった。
担当しているe-learning製品との関連性を感じながら、私はしばらく、自分の知識を試すことを楽しんでいた。
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その週の水曜には、部長同行の長野出張が控えていた。顧客である先生方に、生の声を聞かせてもらい、今後の開発の参考にするのだ。
月曜の午後、出張会議の準備を進めながら、私は、自社製品が提供できている価値を書き出し、整理していた。

・楽しくテンポよく、たくさん反復学習をしてもらうこと。
・学習効果を上げつつ、先生方の作業負担を減らすこと。
・アニメ等の表現で、わかりやすく学習してもらうこと。
私は改めて、自社のe-learning製品の強みが、「知識の獲得」とその管理にあることを振り返った。
しかし、同時に、いわば「知識の詰め込み」のような方法がそもそも学習として有効なのか、本当に役に立つことなのか、だんだんわからなくなってしまった。
<自分に直接関わりのないような知識は、クイズ番組を楽しむ以外で、どのように役に立つのだろうか…>
巷では、多くの学習手法やセオリーが紹介され、思考力、論理力、記憶力そのものを鍛えるようなゲームやツールもあふれている。
<うちのe-learningは、知識獲得型で良いのだろうか…>
それは、急に噴き出して広がった、不安と疑問だった。
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水曜の朝、部長と私は新幹線に乗り込むと、いつも通り、めいめい好きな席に座り、私は道中、本を読んで過ごした。
上田駅に着くと、高い山が見え、涼しい風が吹いていた。
ふと、部長が口を開いた。
「さっき川が見えてたなぁ…あれ、信濃川?」
「え? あ、ええ、おそらく…」
とりあえず相槌を打つ私に、部長は続ける。
「信濃川って、一番長い川だっけ?」
「た、確か…そうだったと思いますが…」
私は、突然降ってわいた地理問題にソワソワとしたが、ほどなく客先に到着し、ほっとしながら話を切り上げた。
会議室に入ると、席にはズラリと先生方が揃っていた。この会合のために、長野県内からだけでなく他県からも駆けつけて下さっている。
席に座って「さぁ、始めるぞ!」と思った矢先、部長がおもむろに話し始めた。
「そこを流れてる川って、信濃川ですか?」
<え…ここでもその質問…?>

意図もわからず呆気にとられる私のそばで、塾長先生がはっきりと頷く。
「そうです。信濃川です」 ※脚注参照
部長が続ける。
「信濃川って、一番長い川でしたよね?」
すると、国語の先生が背筋をすっと伸ばし、誇らしげな笑顔を浮かべた。
「そうです! 流域面積では利根川が一番ですが、長さでは信濃川が日本一です!」
その隣では、新潟担当の先生が大きく頷く。
<・・・!>
やはり誇らしげなその表情を見た瞬間、先の疑問が、ヒントと共に浮かび上がってきた。
信濃川はどのように測られたのか、どんな経緯で一番長いと決まったのか、そんな知見や論理を正確に把握することは、河川や地理への興味がなければ難しい。
だが、それらを飛び越えて、「信濃川は日本一長い」という事実は覚えられる。
部長がどこまで意図したかは、わからないが、相手が大切に抱えているものごとに対し、持てる知識から気づき、配慮と敬意を示す…
私には、信頼がまたひとつ積み重なった瞬間のように見えた。
<知識は、相手を想う気持ちにも活かせる…
知識獲得型のe-learningは、やはり必要だ!>
部長はなおも、長野バナシに花を咲かせている。
詰め込まれて吸収した知識が役に立つ。
その実例を目の当たりにして、私は、目の前が明るく開けたような気がした。
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帰りの新幹線の中、私は、来るときに読み終わった本を再び開いた。
重要と思ったところには、波線とメモが残っている。
パラパラと復習していると、ふと、波線のない一文が目に飛び込んできた。
『多くの人が共通点を知っているからこそ、言葉でコミュニケーションができるのです』 ※引用元 脚注参照
<知識を獲得することには、やはり意味がある…>
夕日に映える山々に、先生方の笑顔を重ねながら、私は、知識という種が、人のあいだで花開くということをしっかりと胸に刻んだ。
ricoの物思いはつづく…。
※河川法上「信濃川」でもある「千曲川」を指しています。
※参考文献「心が思い通りになる技術: NLP:神経言語プログラミング」原田幸治 (春秋社) P124
※2025/09/26追記
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