最近、注目を集めている「デジタルレイバー(Digital Labor)」という言葉をご存じでしょうか。
日本語で「仮想知的労働者」と訳されることもあります。「仮想」という言葉に、仮想通貨やメタバース(仮想空間)をイメージする人も多いかもしれません。
デジタルレイバー(仮想知的労働者)とは、AIやRPAなどのテクノロジーを活用して、コンピューター上で自動的に業務を遂行するソフトウェアロボット全般を指す言葉。デジタルの世界にのみ存在する労働者と考えるとイメージしやすくなるでしょう。
「労働者」というくらいなので、言葉が対象とするのはあくまでも割り当てられた業務を担う単一のシステムになります。作業のやり方をプログラミングしたり、実行内容に問題がないかをチェックしたりと、学習プロセスが必要になるのも特徴です。
ちなみにデジタルレイバーについて語られる際に出てくる言葉に、「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)」があります。RPAは、ソフトウェアにより定型的な業務を自動化する仕組みで、デジタルレイバーと同義で使われるケースが少なくありません。
ただRPAが実行するのはあらかじめプログラムされた処理のみ。ルールを学習して柔軟に業務を実行するという技術ではないため、対応できる業務は限定的です。デジタルレイバーの業務システムのひとつにRPAがあるという位置づけです。
デジタルレイバーにより自動化が可能になる業務としては、定型的なメールの送受信や振り分け、請求データの照合、書類のスキャン・保管・テキスト化、競合サイトからの情報収集などが挙げられます。
さらに現在はAI技術の進歩が著しく、状況をふまえた判断や臨機応変な対応など、より高度に自律化したソフトウェアロボットが増えていく可能性が高いといわれています。
総務省の2020年の調査によると、15〜64歳の平均労働人口は年間で34万人ほど減少しており、多くの業界で労働人口の不足が顕在化してきました。
企業がデジタルレイバーを導入すれば、これまで人間が担ってきた定形・簡単な判断で済む非定形の業務を24時間休みなく自動化することで、人材不足の解決につながります。その分のリソースをコア業務に投入することで生産性向上が実現可能です。
国際的な競争力を獲得・維持するために「DX推進」の必要性が叫ばれている今、デジタルレイバーの活用は必要不可欠になりつつあります。
ここまで読んで、「人間の仕事がすべてロボットに奪われてしまう」…そんなディストピアを想像した人もいるかもしれません。
しかし、発注者の意図を汲み取って形にしたり、複雑な業務をデジタルレイバーがこなせるようになったりするのは、まだまだ先の話になります。デジタルレイバーの成果を管理・評価したり、最終的な意思決定を担ったりするのは、あくまでも人間です。
重要なのはデジタルレイバーが苦手とする領域を正確に把握したうえで、人の手で行うべき仕事や、新たに生まれる仕事を見極めること。
今後はデジタルレイバーと人間が互いの得意分野で補い合いながら、ビジネスパートナーのように協働していく仕事のあり方が主流になっていくのかもしれません。