知っておきたい業界用語や隠語について解説する「IT業界用語・隠語辞典」の第3回は、【隠語編】です。これまで取り上げてきた【ヨコ文字編】【造語編】より、聞いた瞬間、意味がわからない言葉が多いのではないでしょうか。
「マンガ」「怒られる」「ゾンビ」…それぞれ、どういう意味だと思いますか?よく使うものから、IT業界でしか通じないコアな用語まで、さまざまなワードを紹介します。誰かが会議で使ったら、「知ってる!」と心の中でテンションを上げてください。
MTG
「meeting(ミーティング)」を縮めてMTG。そのまま「ミーティング」「会議」という意味合いで使われます。
ネゴる
ネゴるの由来は交渉を意味する「negotiation」です。上司や取引先との交渉・折衝・話し合いなど、双方の合意が必要なシーンで使います。
ゴネる
交渉・折衝・話し合いの際に、言い分を通すためにねばったり、あれこれと注文を出したりすること。また不満やクレームを口にするといった文脈で使われることもあります。
握る
目的や納期、仕事の進め方、予算、契約内容などについて、先方との認識をそろえたり、合意を得たりすることです。取引先とのMTGでは、のちのちのトラブルを防ぐためにも完成イメージをしっかりと握っておきましょう。
紐付く
SEが特定のプロジェクトやクライアントを担当している状態を、SIerでは「紐付いている」といいます。また二つ以上のデータが関連している場合に、「AとBが紐付いている」などと使うケースもあります。
1.0/兼務
1.0は従業員ひとり分のリソースのことで、特定のプロジェクトに100%専念するという意味です。一方、1.0を複数のプロジェクトに分配するのが兼務。たとえば「0.5/0.5」なら、2つのプロジェクトにリソースを均等に割り当てている状態となります。
人月(にんげつ)
作業が完了するまでに必要な工数を表す単位です。「1人月」ならひとりの作業者が1日8時間、ひと月20日の稼働で完了できる作業という意味になります。人週(にんしゅう)/人日(にんにち)/人時(にんじ)で表すケースもあります。Zoomの会議で「ニンジン!?」と聞こえたら、それはおそらく人時かエンジンです。
ボール
プロジェクトにおける担当者や責任の所在を明らかにするときに使う言葉。質問や確認をすることを「ボールを投げる」、回答を保留にすることを「ボールを持つ」といいます。「〇〇の件って、今、誰がボールを持ってる?」など、確認の意味で使われるケースも少なくありません。
プッシュ
プッシュは先方に「催促」することです。投げたボールがなかなか返ってこないときなどに、「忘れられてるかもしれないからプッシュしといて」などと使います。「後押し」する、「推薦」するといった意味で使われる場合もあります。
決めの問題
会議などで決定すべき事柄について、いくつかある選択肢のうちどれを選んでも問題がない状況を指します。生産性を上げるためには、決めの問題についてはあまり議論を掘り下げず、ジャッジ、ジャッジで前に進みましょう。
マサカリ
マサカリは技術的あるいは学術的な観点からの「鋭い指摘」や、反論できない「正論」「ツッコミ」。主に発表などの文脈で、「マサカリが飛んでくる」「マサカリを投げる」というふうに使われます。
正直ベース
言葉の通り、ものごとを包み隠さず正直に伝えることです。相手や自分にとってややネガティブな内容や、言いづらいことを報告するシーンで、「正直ベースでお話しをすると・・・・・・」と前置きしたり、逆に「正直ベースで教えて欲しいんだけど・・・・・・」といってから質問したりします。
嘘をつく
間違ったことを言ったときに、訂正するために「嘘をつきました」などといいます。意図的に嘘をつく(嘘をついた)という意味ではないので注意しましょう。
ASAP(エーエスエーピー/アサップ)
「as soon as possible」の略語。「できるだけ早く」といった意味で使われます。ただし上から目線に捉えられる可能性があるため、目上の人や取引先には使うのはNGです。
切る
プロジェクト管理ツールで、作業・課題に紐付くチケットを新しく発行するときに「チケットを切る」といいます。またサーバーなどの容量を適切に配分するためにディレクトリを作成することを切るという場合もあるため、状況に応じて意味を見極めましょう。
人格
状況ごとの立場や役割を意味する言葉です。いくつもの部署を兼務している場合、その都度その都度で複数の人格を使い分けてコミュニケーションを取ることが求められます。うまくやらないと本当の意味で「人格を疑われる」ので、注意が必要です。
パラ
並行・並列を意味する「パラレル」の略語です。「パラで進める」という場合、複数の業務・案件などを同時進行することを指します。
NR
流行りの「ナンチャラリアリティ」かと思いきや、「No Return」の略で、外出先から職場に戻らず直帰することを指します。ちなみに英語では「故人」や「返品不可」という意味があるため、使用シーンには注意しましょう。
刺さる
アイデアや提案が相手の期待にマッチすること。似たような言葉として「ヒキがある」「響く」もあります。またソフトウェアが動かないときに「刺さった」というケースもあるようです。
ペライチ
「ペラっとした1枚の紙」を縮めた言葉で、簡易的な資料を指します。「ペライチで用意しといて」と言われた場合、「端的にまとめて」というニュアンスがあります。
マンガ
マンガは簡易なシステムの構成図など、資料の内容を理解しやすくするために大まかに描いたイラストを指す言葉です。同じ意味の言葉として「ポンチ絵」という場合もあります。
キックする
「ジョブスケジューラ」で「バッチジョブ」を実行することを、キックするといいます。「バッチジョブ」とはコンピュータ上で一連の処理を実行するプログラム(ジョブ)のまとまりで、このジョブを実行・管理するためのツールが「ジョブスケジューラ」です。
叩く
叩くにもジョブやコマンドを実行するという意味があります。「キックする」との使い分けは、実行する主体が人間かどうか。人が主語の場合は「叩く」を使うのが自然でしょう。
走る
コンピュータ上でプログラムやソフトウェアなどが実行されること。「ウィルススキャンを走らせる」といった言い方をします。
固まる
ソフトウェアやハードウェアの動作が止まったり、操作を受け付けなくなったりする状態です。ちなみに「固める」だと、関連するファイルをひとまとめにしたり、圧縮したりすることを意味します。
死ぬ/殺す/生きる
サーバーや実行中のプログラムなどが突然停止することを、Linuxのコマンド「Kill」にちなんで死ぬといいます。また強制的に終了させるときは「殺す」。対義語は「生きる」で、サーバーやプロセスが起動している状態です。
着火/発火
着火または発火は、ボタンをクリックするなど特定の条件下でイベントが始動すること。「処理を着火させる」といった言い回しをするケースも少なくありません。
這わす/垂らす
ネットケーブルの配線方法です。這わすは床下から配線すること、垂らすは天井から配線することを指します。
食べる/吐く
「食べる」は、コンピュータやシステムがデータを取り込むことを指します。AIの処理精度を高めるためには、質の良いデータを「食べさせる」ことが重要です。一方の「吐く」「吐き出す」は、データが出力されることです。
渡す/投げる
どちらもコンピュータやシステムにデータを送信するという意味がある言葉。送信するデータの正確性によって使い分けるのがポイントです。正しい形式であることを確認して送信する「渡す」に対して、「投げる」には形式を気にせずに送信するというニュアンスがあります。
ちなみにビジネスの文脈では、作業を依頼するときに投げるという場合もあります。投げられるのは、あまり気持ちがいいものではないですね…と思う人は、正しく「お願いする」といいましょう。
配る/取りにいく
配るも「渡す/投げる」と同じく、データ送信に関する隠語。サーバーがクライアントにデータを送信することで、渡すと異なり受信元のクライアントが複数いるときに使います。
対義語は「取りにいく」で、クライアント側がサーバーからデータを取得する状況です。
開ける/閉じる
ネットワークからコンピュータへの接続に関する設定です。開けるは接続を許可すること、閉じるは遮断すること。主にデータ通信、サーバー、ファイアウォールに対して使われます。
サチる
saturate(飽和する)を元にした造語で、リソースの残りがなくなっていっぱいいっぱいになること、パンク寸前になることです。「彼、いまサチってるから後にしてあげて」など、システムだけでなく人間にも使います。「幸せ」の「さち」とは真逆なので、要注意です。
つかむ
作業者や実行中のプログラムがリソースを使っていて、特定のアプリケーションなどを使用できない状態。ほかの人がExcelをつかんでいて編集できないというシチュエーションはあるあるです。
はまる/ハマる
目的と技術がうまく適合した状態をはまるといいます。一方、技術的にうまくいかず作業が難航する状況も「はまる」。特定の領域や技術に夢中になることもハマるです。
最後の「ハマる」は、ニュアンスが伝わるようにカタカナで表記する人も多いようです。いずれにせよ、音は同じなので使われる文脈で意味を判断しましょう。
舐める
データやソースコードなどをじっくり読み込んで、内容を参照・理解すること。最初から順番に読んでいくことを「頭から舐める」、最後から見ていくことを「お尻から舐める」という場合もあります。
エイヤー
「思い切ってやる」「おおまかにやってみる」といった意味で使われます。ためしてみないとわからないことで、リスクも小さそうな時は「エイヤーでやっちゃおう」というなど、勢いを表せる言葉です。
怒られる
稼働させたシステム処理が失敗したり、警告終了したりしてしまうこと。間違いを指摘するエラーメッセージや、「〇〇してください」という指示に対して、パソコンやコンパイラから怒られているように感じるところからきています。
コケる
実行していた処理が予期しない原因で中断してしまうこと。利用シーンとしては、ソフトウェアの不具合による異常終了を指す場合が多いでしょう。
踏む
「地雷を踏む」から転じて、プログラム上の誤作動・不具合といったバグに遭遇することです。「バグる」という言い方もあります。
エラドリ
「エラー」と「取り」を組み合わせた略語。発生したエラーの原因を探し出して修正する作業のことです。
逃がす
データ喪失の可能性を見越して、あらかじめ別の場所にデータを移しておくことを逃がすといいます。
ガリガリ
作業としては簡単ではあるものの、分量が多い状況。おもにソースコードの記述などの文脈で使われます。
ガバガバ/ガチガチ
セキュリティ対策が甘く脆弱な状態がガバガバです。一方、ガチガチはセキュリティ対策が過剰な状態。セキュリティと利便性は基本的にトレードオフの関係になるため、バランスが重要になります。
サクサク/ヌルヌル
コンピュータやシステムの動作に関する表現です。サクサクは操作に対する反応が機敏で、画面遷移もスムーズなど、操作にストレスがない状態。ヌルヌルにも同様の意味がありますが、こちらはアプリのUIなどに使われるケースが多い言葉です。
もっさり/カクカク
サクサクの対義語がもっさり、ヌルヌルの対義語がカクカク。コンピュータやシステムの立ち上がり・反応・動作が遅い状態です。
ゾンビ
すでに処理が終了したにもかかわらず、システム上に実行中のまま残っているプログラム。メモリを占有するため、強制終了や再起動などで消滅させる必要があります。ゾンビプロセスとも呼ばれます。
枯れた
ソフトウェア/ハードウェアがリリースされてから時間が経過し、バグ・不具合が出尽くして安定した状態。企業が重要な基幹系システムなどを導入する場合には、慎重を期して枯れるのを待つケースも少なくありません。一般的な意味とは裏腹に、ポジティブな意味で使われることが多い言葉です。
以上、IT業界でよく使われる用語・隠語を3回にわたり紹介してきました。
意味がわからない言葉を自分なりに憶測するだけで仕事を進めてしまうと、認識の違いからミスにつながることもあります。「ヌルヌルするなんてマズい!直さなきゃ」で余計な作業をするなどは、痛恨の極みです。
知らない言葉を耳にしたときは、すぐに調べるか先輩・上司に確認しておきましょう。「殺すって、まさかホントに…」とは聞きづらいとは思いますが、いつまでもわからずモヤモヤし続けるよりは「エイヤー」で聞いたほうがいいでしょう。
また、社内で覚えた言葉をクライアントに使っても伝わらなかったり、場合によっては心証を悪くしてしまったりする可能性もあります。普段使わない言葉は、語意とニュアンスを把握して使い分けるようにしましょう。
IT業界特有の用語・隠語は、使いこなせるとそれなりに楽しく、業務上のやり取りがスムーズになる便利なツールです。まずは身近で使われている業界用語や隠語に慣れて、円滑なコミュニケーションを楽しんでください。
※この記事は2023年6月23日に公開した記事を再編集しています。