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現場の取り組み

情シス野郎チラシの裏【60】 新500円硬貨

現場の取り組み

【情シス野郎 チラシの裏】は、「情報処理安全確保支援士」資格を持つ情シス担当が、仕事を通して得た知識や技術を、技術面に詳しくない人でも読みやすいよう「チラシの裏」に書くかのごとく書き散らす!というシリーズです。

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「あっづ・・・」
玄関の扉を開けた瞬間、ひねりのないただの感想が口から漏れ、足が止まる。

「サッカーの練習を終えた息子を連れ帰るのだ」とクエストを与えた妻の、「よろしくー(意訳:何をしておる、早く行くがよい)」という声を背に受けると、勇者は軽く右手を上げて冒険へと旅立った。

暑さで息苦しさを感じながら、ビーサン勇者は静かに歩き始めた。車道に目をやると黒光りしたアスファルトには陽炎が揺らめいている。耳を澄ますと「そんな装備で大丈夫か?」と煽る蝉の声が遠くから聞こえるが、暑さのためか周囲に村人の気配はない。夏休みの真っ昼間にも関わらず静けさすら感じる。

クエストの目的地までは片道15分といったところだろうか。
回復が必要になるかもしれない。汗でじんわりと湿った右手をポケットに突っ込むと、分厚い500ゴールド硬貨独特の感触が指先に伝わって来た。まあどこかに自販機くらいはあるだろう。

目的地に着くと王子がサッカーボールを放ったらかして友達と駆け回っているのが目に入って来た。どうやら彼のHPは無限大のようだ。練習自体は終わっているようなので、遊び足らない不満顔に気づかぬふりをして連れ帰ることにした。

そろそろか・・・。
帰路、最初はよく喋っていた王子もしばらく歩くと暑さのせいかいつの間にか無口になっている。
勇者は道端に設置された、電子マネー?なにそれ?と言わんばかりの、砂埃で黄ばんだ自販機の前に立ち、虎の子の500ゴールドを取り出した。

令和5年と記載されたこの新500円硬貨は、偽造防止を目的としてリニューアルされたものだ(新硬貨の発行は令和3年)。

高額硬貨は世界的にレアであり、スイスの5フラン硬貨と並んで世界で最も価値のある硬貨のひとつである。

そのため、500円硬貨の歴史は偽造との戦いであった。

初代500円硬貨が1982年に発行された際には、同年発行の韓国硬貨を加工した偽造硬貨が使用され、1990年代後半には毎年数十万枚の偽造硬貨が発見されることとなった。

それを受けて2000年に発行された2代目は材質が大きく変更された。この対策は、自販機での偽造検出に大きな効果を上げたが、2010年代後半になってまた見られるようになったという。

そして満を持して2021年に発行された最新の500円硬貨は3代目である。3代目にも偽造を困難にするための様々な仕組みが組み込まれた。

目玉は、異なる材質で製造された外側と内側の金属をはめ合わせるバイカラー・クラッドと、側面ギザが場所により形状が異なる、異形斜めギザである。

これ偽造出来るやつおらんやろ~、と素人目にも分かる、鮮やかな二重色彩と法則性のないギザギザだ。

まずは王子が所望するイオン飲料を買おう、と勢いよくキラキラの500ゴールドを自販機に入れると、カランと釣銭口に落ちて来た。

どうやら勢いよく入れ過ぎたか。古い自販機だし慎重に入れよう。

再び吐き出される500ゴールド。

何度入れても飲み込んで頂けない。。。そこで勇者はやっと気づく。これは、どうやら“そういうこと”のようだ。

偽造対策で発行された新硬貨が偽造硬貨扱いされて使えないこの皮肉な状況は、ちょうど新500円硬貨が発行された2021年から世界的に発生した半導体不足と、2024年に予定されている新紙幣発行を前にした投資控えによって起こっていると言われている。

また、500円玉の流通量は他の貨幣に比べれば少なく、電子マネー利用者も増えており、現時点では投資対効果が低いと判断されているのも原因だろう。

自販機の硬貨判別はコインメックと呼ばれる釣銭機能を内蔵した電子セレクターで行われている。
セレクターを硬貨が通過する際の磁力の乱れを利用して、大きさや形状、材質を判断し、選別されるらしい。

新硬貨への対応コストはメーカーによるが、1台あたり数万~数十万であり決して軽くはない。2024年の新紙幣と合わせて対応されるケースが多そうだが、もしかすると伝説の2000円札のように流通量が伸びないと今後も対応されないかも知れない。

ということをかいつまんで説明すると、そっか、じゃあしょうがないね。と、王子は荷物からおもむろに水筒を取り出し、勢いよくスポーツドリンクを飲みだした。

いや持っとんのかい・・・と独りごちながら、飲み終えてさっさと歩きだす彼を追い、トボトボとクエスト完了報告に向かう勇者であった。

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