ひと昔前までは「仕事ができる人」の文章スキルといえば、ビジネスメールを上手に書けることでした。
しかし最近は、リアルに近い円滑なやり取りができるチャットツールが普及したことで、求められる文章のスキルが変化しています。
チャットツールは従来のメールと比べて、気軽にメッセージのやり取りができたり、3人以上のやり取りにも活用しやすかったりと、さまざまなメリットがあります。とくにテレワークやハイブリッドワークでのコミュニケーションには、いまや必要不可欠なツールです。
短いメッセージを誤解なく、さらに感じよく伝えるテキスト表現力の持ち主が、令和における「仕事ができる人」になりつつあります。一方で、このようなチャットでのコミュニケーションに、苦手意識を持っている人も多いのではないでしょうか。
今回はそんな「SNS時代のテキストコミュニケーション」について、テキスト表現力を高める具体的な方法を解説。ビジネスチャットを使いこなして、円滑なコミュニケーションを実現したいという人は、ぜひ最後までチェックしてみてください。
テキストコミュニケーションの難しさとは?
チャットでのコミュニケーションが難しく感じられる理由のひとつは、簡潔さが求められる点にありそうです。
チャットツールの画面は、SNSのタイムラインのように、テキストがテンポよく流れていく状況に適しています。一度に送る文章が長すぎると読みにくくなったり、重要な情報が埋もれたりしてしまう場合もあるため、ビジネスメール以上に簡潔なメッセージの作成が求められます。
しかし「簡潔なコミュニケーション」と「伝わりやすさ・正確さ」はトレードオフの関係になりがちです。
短くした結果、細部が不明瞭になって、確認・質問のためにチャットのラリーが増えてしまうケースも、、、。結果として情報伝達に割かれる時間や労力が増えてしまっては本末転倒です。また双方に情報認識の齟齬が生まれることで、手戻りによる時間のロスや、アクシデントにつながる恐れもあります。
さらに、短い言葉でやり取りをするチャットは、メール以上に発信者の感情や本意が伝わりにくいのも難点です。
ひとつ間違えると、上司やクライアントにぶしつけな印象を与えてしまうかもしれません。相手に対して、「急かされているのではないか?」「怒らせたのではないか?」など、心理的なプレッシャーを与えてしまう可能性もあります。
とはいえ、「どのように伝えるか」を考えすぎても、チャットならではのスピード感と効率は損なわれてしまいます。レスポンスが遅れると、相手に「チャットに気づいていないのではないか」「無視されているのではないか」といった余計な懸念を与える材料になりかねません。
このように一筋縄ではいかないチャットコミュニケーションですが、テキスト表現力を高めるためには、どんなところに気をつけてメッセージを書けばよいのでしょうか。ここからはテキストコミュニケーションを円滑にする具体策を紹介していきます。
相手が読みやすい文章を心がける
「読みにくい文章」は、受け手への負荷が大きく、やり取りの遅延やストレスの原因になりえます。また要点が埋もれてしまうことで、情報伝達自体がうまくいかない可能性もあるでしょう。
読みやすい文章を書くポイントは、メッセージをできるだけ短くまとめること。短い文章は、一目見ただけでテキストの要点を理解できるため、コミュニケーションがスムーズになります。
メッセージを短くまとめる第一歩は、伝えたいことに優先順位をつけて必要最低限に絞ることです。可能であれば、1回のチャットに盛り込むメッセージはひとつに限定するのが理想です。
1回のチャットに「伝えたいこと」がいくつも盛り込まれていると、文章はどうしても長くなります。さらに、「情報量が多すぎて受け手が混乱してしまう」「読み終えたときには最初の内容を忘れてしまう」という声も聞こえてきそうです。
慣れないうちは箇条書きで伝えたいことを書き出してから、優先順位で並び替えをしてみるのがおすすめです。そのうえで、緊急度・優先度の低い内容は送付のタイミングをずらすなどの工夫をしましょう。
テキスト全体だけでなく、一文一文も短く簡潔にすると、意味を直感的にとらえやすくなります。文が長くなってしまったときは、2〜3つの文に区切れないか検討してみるのも一案です。こうして文の数を増やしたときは、接続詞をはさむと文章の流れが読み取りやすくなります。
文章の冒頭に議題や結論を明示するのも効果的なテクニックです。その後につづく内容があらかじめ方向づけられるため、文章の理解がスムーズになります。同じ理由から、過去の話題を取り上げるときは前出の文章を引用して、文脈・論点を明確にすると親切です。
受け手の負担を減らすうえでは、文章の「視認性」を高めるのも有効です。
たとえば文章に空行がないと、圧迫感が出て読みづらい文章になります。チャットツールでは句点ごとや段落ごとに適度な改行を入れて、すっきりと読みやすい文章を心がけましょう。
箇条書きも、パッと見ただけで内容を理解しやすい文章形式です。同じ粒度の情報を並列するときや、手順・時系列を記載するときには積極的に活用しましょう。
重要な箇所は、ほかの情報に埋もれないように太字・【】・囲みなどで強調すると間違いがありません。視覚的にもメリハリをつけることで、正確かつスピーディーに読める文章が実現できます。
わかりやすく伝えてラリーを少なくする
コミュニケーションを効率よくするためには、ラリーをいかに少なくするかも大事です。
そのためのポイントは、曖昧な表現を避けること。相手からの質問には複数の解釈ができるような回答はせず、「はい・いいえ」で答えられる場合には簡潔に答えます。
それ以外でも、最初に結論を伝えるよう心がけ、語尾はぼかさずに断定の表現を使うようにすると誤解が生じにくくなります。
同時に、その結論に至った理由・根拠もしっかり記載するようにしましょう。「なぜそう言えるのか?」が伝わらないと、相手はその部分を掘り下げるために、さらに質問を重ねなければいけません。
業務連絡や情報伝達でも同様に、できるだけ一度で伝わるメッセージを作成します。相手がどんなことを疑問に感じるか、どのような質問が返ってきそうか、補足情報は必要かどうかを想像して、メッセージを付け加えるのがポイントです。
その際は、いわゆる5W1Hを念頭に置いてみると、足りない情報が見つけやすくなります。また、相手が何を知っていて何を知らないかを考慮に入れながら文章を作成すると、過不足のないメッセージになります。
難解な言葉や専門用語・業界用語の取り扱いにも注意が必要です。相手によっては伝わらないケースもあるため、できるだけ誰もが理解できる平易な言葉づかいを意識しましょう。
また、何かしらの回答が必要なときや、業務などを依頼したいときは、文末で相手に求める具体的なアクションを明示すると、ムダなやり取りや認識の齟齬が発生しづらくなります。
ここでもアクションが必要な背景や、誰が・何を・いつまでにやるのかを詳細に記載しましょう。とくに「いまだれが責任や主導権を持っているのか」は、曖昧になりやすい部分のため、その都度その都度で認識を合わせるようにします。
締切を設定するときは、「緊急で」「なるべく早く」といった人によって捉え方が異なる表現はNGです。何日の何時まで、と具体的な日時を指定します。「やや」「少し」「かなり」といった程度を表す形容詞も、数値に変換すると確実です。
「ご確認ください」も、状況によっては意味が通じにくい言葉です。何らかの回答・対応が必要な場合には、その旨をくわしく記載しましょう。簡単なリアクションだけで問題がない場合でも、「問題点があればご指摘ください」「確認したらスタンプを押してください」「返信不要です」などの文言で締めくくると、その後のやりとりがスムーズに進みます。
ポジティブな感情が伝わるようにする
メッセージが無味乾燥になりがちなチャットコミュニケーションでは、いかに感情を伝えるかも重要なポイントです。「はい」「了解です」「確認しました」など、あまりにも単調な文章は、相手に冷たい印象を与えかねません。
コツは、カジュアルな表現を加えること。たとえば「!」マークや、感嘆詞・絵文字・スタンプなどを使うと相手に与える印象が柔らかくなります。
ネガティブな印象を与える否定的な表現も、できるだけ避けるのが無難でしょう。たとえば「明日までに提出してもらわないと困ります」という文言は、「明日までに提出してもらえると助かります」と肯定的な言い回しにすることで、ポジティブな印象を与えられます。
否定形の文章を使わないことも、好印象を与えるポイントです。「わかりません」を「教えてください」に、「参加できません」を「不参加でお願いします」に言いかえるだけでも、文章から受ける印象はかなり変わります。
後輩・部下に業務上の改善を求めるときや、注意を促したいときも、頭ごなしに否定するのはNG。まず相手の良いところを褒めてから指摘をするように心がけると、改善点を素直に受け取ってもらえます。断定を避け、「〇〇するといいかもしれません」「〇〇と思いました」などと、あえて語尾をぼかすのもひとつでしょう。
文面が硬いメッセージも、相手に威圧感を与える要因です。
文面を柔和にするうえでは、漢字をひらがなに開くのが効果的。「宜しく(よろしく)」「致します(いたします)」「有り難う(ありがとう)」「頂く(いただく)」「是非(ぜひ)」「等(など)」といったひらがなでも伝わる言葉は、できるだけひらがなで書くように意識します。ただしやりすぎは禁物。ひらがなが続きすぎると単語の区切りがわかりにくくなるため、適度なバランスを意識しましょう。
さらに日常的に使わない熟語の使用は避け、平易な言葉を用いるようにします。たとえば「ご教示ください」は「教えてください」に、「幸甚です」は「幸いです」に、「忌憚なく」は「ざっくばらんに」などと言い換えると、親しみやすい表現になります。
もちろん、「ありがとうございます」「助かりました」「うれしいです」など、ストレートに感謝の気持ちや現在の感情を言葉にするのも効果的です。
一方、相手からの依頼を断らなくてはならないときなどは、メール同様に「恐れ入りますが」「申し訳ありませんが」「お手数ですが」などクッションになる言葉を添えるようにしましょう。
ただし、クッション言葉や「させていただきます」「存じ上げます」などの謙譲語を多用しすぎると、文章が冗長かつ伝わりにくくなるため注意が必要です。時候の挨拶など、ビジネスメールでよく使われる「形式的な書き出し」も、チャットツールでのやり取りには基本的に不要です。
テキストコミュニケーションでは、先述した「相手にとっての読みやすさ」や「わかりやすさ」が最重要。そのうえで「可能であれば感情を上乗せする」という優先順位をつけるといいでしょう。
社内でのやり取りを効率化するなら、「定型的な挨拶は不要」「承認はスタンプでOK」など、運用ルールをつくっておくのもおすすめです。あらかじめ社内にルールが共有できていれば、そっけない返信であっても、ネガティブな受け取られ方をせずに済みます。毎回「どのように返信しよう」と悩むプロセスが省けるので、やり取りの負担も大幅に削減できるでしょう。
文章表現以外で気をつけるべきポイント
テキストコミュニケーションをより円滑にするためには、文章以外にも気をつけるべきポイントがあります。
たとえば「どのタイミングで返信するか?」も、相手に与える印象を左右する広義の「表現」です。メールと比べて手軽に返信できるチャットツールは、それだけに速やかな返信を求められるケースが少なくありません。
回答しないと相手の業務が滞ってしまう場合はもちろん、緊急度が低い内容でも、24時間以内には一度返信をしておくのが無難です。即答が難しい内容であれば、「確認して連絡します」など、チャットを読んだ旨を伝えるだけでもOKです。
逆に、断りの連絡などで、返信が早すぎると悪い印象を与えてしまうことが危惧される場合は、あえて少しだけ時間をあけてから、やむを得ず辞退する旨を伝える、というテクニックもあります。
メッセージを送信する日時も、気を遣いたいポイントです。緊急の場合は仕方ないものの、基本的には休日や退社後の時間に送信をするのは避けたいところ。そのタイミングで送らないと忘れてしまいそうなときは、出社日の朝などに送信予約をしておくのも一案です。
また、伝達すべき情報が複雑なときや、センシティブな内容のとき、緊急時など、直接話をした方がいい場面もあります。すべてのコミュニケーションをチャットに頼るのではなく、状況に応じて電話やWEBミーティング、対面での会話などを使い分けるようにしましょう。
以上、テキスト表現力を高めるためのポイントについて解説しました。
気をつけることが多すぎる、、、という方は、さっそく取り組める以下のようなことに気をつけることから始めましょう。
・ひとつのメッセージは短く
・伝えたいことに優先順位をつけて最小限に
・視認性を高めるために記号や箇条書きを有効に使う
・語尾はぼかさず、言いまわしは簡潔に
余裕があれば
・ポジティブな感情を伝える工夫をプラス
この記事を参考にしていただいて、短い言葉で適切にメッセージを伝える文章力を身につけていってください。この記事に返信は不要です。あ、ちょっと冷たく感じられますね。「お忙しいなか、ご返信いただかなくても大丈夫です」。
※この記事は2023年8月31日に公開した記事を再編集しています。