史上最高の人気を誇ったアーケードゲーム「スペースインベーダー」がリリースされたのは1978年。現在60歳の人が中学3年生だった頃です。当時、ゲーセンはまだまだ少なく、郊外や地方では国道沿いのドライブインや文房具屋さんにゲーム機が置かれていました。1回100円か50円。駄菓子屋さんのなかには、10円でできるところもありました。
スペースインベーダーの後はギャラクシアン、ゼビウス。うまい人が長々と占領しているゲーム機が空くのを、イライラしながら待っていた経験がある方もいるでしょう。ファミコンの発売は1983年。同じ年に、PCゲームソフト「信長の野望」が誕生しています。
国連による「シニア層」の定義は60歳以上だそうです。だとすると、これからのシニア層は、「コンピューターゲームの第一世代」ということになります。インベーダーの大流行から45年。今、シニア層がeスポーツにはまりつつあるようです。
eスポーツ(エレクトロニック・スポーツ)は、電子機器を使ったゲーム競技。体を激しく動かすのが難しい人でも、指や腕の動きだけで楽しめるのが特徴です。
eスポーツの利点は、老若男女が手軽に楽しめるだけではありません。高齢者の認知症予防や、コミュニティ形成などの目的でも効果が期待されています。
本記事では、そんなeスポーツの「生涯スポーツ」としての可能性をレポート。またeスポーツに関するさまざまな取り組みや、eスポーツ関連のビジネスを展開する株式会社eekの事業も紹介します。

eスポーツは国内外で急速に成長中!
eスポーツ人気が世界で急上昇したのは、1990年代。インターネットを通じてPCでゲームが楽しめるようになったこと、対戦型のゲームが増えたことが背景にあります。2000年以降は、賞金付きの世界大会が開催されるようになりました。2000年には10大会しかなかった世界大会は、2010年には260大会まで増えています。
YouTube Live、Twitchなどのライブ配信プラットフォームの発展も、大会のさらなる盛り上がりに寄与しているようです。現在、観戦者は全世界で6億人にも達するといわれており(※ 1)、興行ビジネスとして存在感が高まっています。シーズン賞金の総額が3億円を超える大会もあり、世界のeスポーツ市場規模は2023年に19億8000万ドルに到達しました(※ 1)。
そんななかで、IOC(国際オリンピック委員会)は「オリンピック・アジェンダ2020+5」(※2)で、「バーチャルスポーツの発展を促し、ビデオゲームコミュニティとの関わりを深める」と発表。
2023年にeスポーツ専門の委員会を設置するとともに、eスポーツの新たな大会の創設を決定しました。ICOが主催するeスポーツ大会「Olympic Esports Games」は、2027年にサウジアラビアで初開催される予定です。
(※2025/11/25 追記:国際オリンピック委員会(IOC)は(2025年10月)30日、2027年にサウジアラビアで開催予定だったコンピューターゲームなどの腕を競うeスポーツの新設大会「オリンピック・eスポーツ・ゲームズ」を中止する(他の場所を探す)と発表しました)
いまや世界的な盛り上がりを見せるeスポーツ。「ストリートファイター」を生み出した国、わが日本は、この流れに乗り遅れてしまいました。ニッポンの少年たちにとって、「ポケモン」「スーパーマリオ」「ドラクエ」は、あまりにもおもしろすぎたのかもしれません。eスポーツにおいては、プレステやWiiはガラパゴスなのです。
それでも、2007年には「日本eスポーツ協会設立準備委員会」が発足。2011年には、「第1回eスポーツJAPAN CUP」が開催されています。
さらに2018年、日本国内のeスポーツの普及・発展・振興を目的とした一般社団法人日本 e スポーツ連合(JeSU)が設立されました。2024年には、JOC(日本オリンピック委員会)から準加盟団体として承認されています。
同年、JeSUは選手や関係者向けに、アスリートとしての自覚を促すコンプライアンス研修会を実施。オンラインカジノの違法性、SNSで発信する際の注意点、アンチドーピングなどの啓発が行われました。
このような取り組みからも、eスポーツの「スポーツとしての社会的価値」を高めようとする業界の意欲が感じられます。
JeSUのニュース(※3)によると、2019年は約61億円だった国内のeスポーツ市場は、2021年に約98億円まで増加。コロナ禍が落ち着いた2022年には、中止となっていた世界大会が続々と再開され、約125億円という成長を遂げています。2025年には200億円に迫ると見込まれており、日本発のスターアスリートが続々と話題になるはずです。
生涯スポーツとして期待が高まるeスポーツ
人気競技として存在感を増しているeスポーツ。一方で、若者に限らず世代を超えて楽しめることから「生涯スポーツ」としても注目が集まっています。
急速に高齢化が進む日本において、高齢者の社会参加は重要な課題です。介護を担う人材の不足、一人暮らしの高齢者の増加、近所付き合いの希薄化⋯。これらの問題は、高齢者の生活不安や生きがいの喪失、認知機能の低下、うつ病などのリスクがあるといわれています。
このような現状を背景に、高齢者が活き活きと暮らせる社会を実現するためのソリューションとして期待されているのがeスポーツです。
eスポーツは体に負担がかかりにくく、事故・怪我の心配もありません。そのため年齢・性別・障がいの有無を問わず、平等に対戦をすることが可能。高齢者が楽しむのにぴったりのレクリエーションといえるでしょう。
eスポーツがもたらす目的意識や競争性・達成感は、精神の活性化や日々の活力・生きがいにもつながります。実際に、音楽ゲーム・スポーツゲームなどの操作が簡単でルールがわかりやすいジャンルは高齢者からも人気です。
近年は、高齢者の家族がeスポーツを活用したケアに注目するケースも少なくありません。高齢の家族にゲーム機をプレゼントしたり、eスポーツを祖父母世代と孫世代の共通の趣味にしたりと、家族間の交流にもつながっています。
さらに、オンラインゲームであれば自宅にいながら、国内外のさまざまなプレイヤーとも交流が可能。世代を超えたコミュニケーションの促進や、新たなコミュニティの形成など、社会的孤立の防止策としても機能する可能性が高いでしょう。
「eスポーツが認知機能の向上や健康促進につながる可能性」を示唆する研究もあります。反射神経・集中力をはじめとする脳機能の活用や、手足の適度な運動が、脳・身体の活性化につながるためです。今後はeスポーツが、認知症や加齢による心身の衰えを予防する新たなリハビリとして普及するかもしれません。
これらのメリットから、地域活性化や福祉の施策にeスポーツを取り入れる自治体・地域企業も増加しています。
たとえば栃木県では2022年、国体の文化プログラムとして「全国都道府県対抗eスポーツ選手権2022 TOCHIGI」を開催。世代・属性を超えたイベントの盛り上がりを受けて、翌年には「とちぎeスポーツ地域活性化実行委員会」が設置されました。
現在は大規模イベント「とちぎeスポーツフェスタ」の主催や、県内の高齢者を対象にしたeスポーツ体験会の開催、障がい者を対象にしたeスポーツ体験会の企画など、eスポーツの普及啓発に行政主体で注力しています。
ほかにも群馬県太田市の「ぐんまeスポーツフェスタ」や、60歳以上の方を中心とした健康と福祉の総合的な祭典「ねんりんピック」に初めてeスポーツを取り入れた鳥取県など、eスポーツのイベント開催に力を入れる自治体は少なくありません。
「アウトドアのまち」として有名な新潟県三条市でも、地域活性化にeスポーツが活用されています。施策のひとつが、NPO法人と連携した高齢者向けのeスポーツ教室の開催。ゲームを通じて、高齢者が孫世代の若者と交流できる機会を創出する取り組みです。
スタッフとして地元の高校生・大学生が参加することで、世代間コミュニケーションのさらなる活性化につながりました。ゲームをきっかけにした交流から、スマートフォンの使い方を教えてもらうなど、デジタル格差を埋める副次効果も出ています。
また、高齢者向けの施設でeスポーツやeスポーツ体験会を取り入れる試みも全国で拡大中。なかでも人気なのが、音楽ゲーム「太鼓の達人」です。ボランティアの学生が施設を訪ねていっしょにゲームを楽しむケースも少なくありません。
秋田県では、2021年に日本初のシニアeスポーツプロチーム「マタギスナイパーズ」が発足されました。スローガンは「孫にも一目置かれる存在」。60歳以上の選手たちが、シューティングゲームを中心に大会出場・動画配信などの活動を行っています。
eスポーツを通じて社会の活性化に貢献する「株式会社eek」
正式な競技としても、世代を問わず楽しめるレクリエーションとしても、可能性の幅を広げているeスポーツ。しかし日本のeスポーツ業界は、世界と比べればまだまだ発展途上であり、山積する課題の解決にはさまざまな取り組みが必要とされています。
そんななかで、2022年にソルクシーズグループとして設立した株式会社eekは「eスポーツを通じて社会の活性化に貢献する事」をミッションに、eスポーツが抱える課題と向き合う会社です。主な事業内容は「eスポーツ選手のエージェント業務」「eスポーツ専門の求人マッチングサイトeekの運営」そして「eスポーツに特化したコンサルティング」の3つです。
「エージェント業務」では、チーム契約時の契約交渉・年俸交渉・移籍交渉といった代理人サービスを実施しています。交渉時のさまざまなリスク・時間・損失・ストレスを回避。プロ選手が安心してシーズンに集中できる環境を提供します。
「eek」は、株式会社eekが運営するeスポーツ専門の転職・求人サイトです。eスポーツチームの講師・コーチ・運営者、大会の企画者・運営者、施設運営、eスポーツ企業での仕事など、業種特化型サイトならではの質の高い求人情報が幅広く揃っています。
高い専門知識を持ったコーディネーターのサポートも強み。eスポーツに関わるさまざまな人材の採用・育成を支援しています。
最後の「コンサルティング業務」は、eスポーツを活用したい企業・団体向けのサービスです。新規事業の立ち上げから、eスポーツ施設開業、配信スタジオ開業、学校開校など、さまざまな取り組みをサポート。地域の活性化やeスポーツの普及を目的とした取り組みも実施しています。
たとえば、eスポーツの認知が広がっていくなかで、シニア層の注目度の高まりを捉えたeekは、2023年2月に「高齢者施設向けeスポーツ体験会&交流会」を開催。サービス付き高齢者住宅で、高齢者が学生と交流しながら「太鼓の達人」を楽しむ場を設けました。
また、株式会社eekは全国の自治体に向けた「eスポーツパッケージ」も展開中です。地方自治体がeスポーツイベントを手軽に開催できるように、下記3つの総合的なソリューションを提供しています。
・施設構築パッケージ:最適な環境づくりをサポート
・イベントパッケージ:企画から運営までワンストップで提供
・コーチングパッケージ:元プロ選手の指導によるスキルアップ支援
各パッケージは、規模や目的・予算・地域特性に応じてカスタマイズが可能。一貫したサポート体制により、eスポーツを通じた地域振興・交流促進・コミュニティ形成を実現します。
2025年4月には、このパッケージを活用した「eスポーツイベントin苫小牧 シーズン0(ゼロ)」を北海道苫小牧市と共催しました。eスポーツを通じた若者の交流促進と地域活性化を目的に、世界的に活躍する「ストリートファイター6」の人気プロゲーマーNEMO選手をお招きし、終盤には一般公募で参加された苫小牧市在住のプロゲーマー・あでりい選手がNEMO選手と対戦するなど、大盛況のイベントとなりました。
eekお知らせページは こちら
eekインタビューページは こちら
シニア層の参加でますます盛り上がるeスポーツ
今回は、eスポーツの「生涯スポーツ」としての可能性や、株式会社eekの取り組みをレポートしました。「家にいながら楽しめる」「認知症防止になる」「仲間が増える」「子どもや孫との会話が弾む」…これだけいいことがあれば、アクティブなシニア層がトライしないわけがありません。
スウェーデンには、最高齢の選手が70代後半というシニアのプロチームがあるそうです。世界で最も早く少子高齢化が進んでいる日本から、とてつもなく強いシニアチームが生まれる可能性があります。
eスポーツを楽しむ日本のシニア層は、「プロをめざすアスリート系」「勝利至上主義の体育会系」「みんなで楽しむサークル系」「家族で盛り上がるインナー系」などに分かれるのかもしれません。いずれにしても、本気で打ち込めることや、一生楽しめる趣味があるのは豊かなことです。
以上、eスポーツは、生涯スポーツのひとつとして日本社会にも根付くのではないかというお話でした。みんなが楽しむようになり、あちこちにサークルができると、昔の大学みたいに、「練習や試合にはこないけど、花見やコンパは全出席」なんて人も出てきそうです。それはそれで、オッケー?
出典
※ 1
eスポーツ視聴者統計 2025 – 人口動態と成長
DemandSag
https://www.demandsage.com/esports-statistics/
※2
オリンピック・アジェンダ2020+5 – 15の提言https://www.joc.or.jp/olympism/agenda2020/pdf/agenda2020-5-15-recommendations_JP.pdf
※3
JeSUニュース (2025/3/1)
https://jesu.or.jp/contents/news/news-250331/
※この記事は2023年4月12日に公開した記事を再編集しています。


