就活サイトや転職サイトなどを見ると、「自分の適性を把握して仕事や就職先を選ぶようにしましょう」などと書いてあります。なるほど、システムエンジニアの適性は…と続けて読んでいくと、決まって書かれているのは、「コミュニケーション力が高いこと」。
システムエンジニアは、オタク・暗いというイメージがついてまわるけど、実際は違うんだぞと主張するかのように、「コミュニケーションを取れ」「顧客のニーズを聞き出せ」と攻め込まれます。そんなこともあって、システムエンジニアの仕事に興味があるものの「コミュ障の自分には向いていないのではないか」と一歩が踏み出せない人も多いのではないでしょうか。
しかし、この不安には実は2つの誤解があります。
ひとつめの誤解は「コミュ障にはシステムエンジニアは務まらない」というもの。いわゆる「コミュ障」は、システムエンジニアの世界で必要とされるコミュニケーションスキルが低いことを意味しません。
そして2つめは、コミュニケーションスキルは「持って生まれたもの」「性格によるもの」という誤解です。
実際にはコミュニケーションスキルと性格は無関係。コミュニケーションスキルは訓練次第でいつからでも身につけることができるため、「学生時代コミュ障だったから⋯」という理由で諦める必要はありません。
この記事ではシステム開発の現場で活躍するソルクシーズ社員の声も交えながら、「SEのコミュニケーション」にまつわる誤解を払拭。コミュニケーションスキルを身につけるための具体的な訓練方法についても解説していきます。
「コミュニケーション力が高い／低い」のありがちな誤解
前提として、ひと昔前までの「システムエンジニアは、ひとりでコツコツとタスクをこなす仕事」「技術力さえあればOKの仕事」というイメージは捨てましょう。コーディングのみを引き受けるプログラマーなら、コミュニケーション力が多少低くても問題ないものの、システムエンジニアをめざすなら交渉力や提案力、スキルアップは必要不可欠です。
システムエンジニアの仕事は、クライアントとやり取りをしたり、チームメンバーと協力したりと、さまざまな立場の人と関わるものが中心。打ち合わせの機会も多く、コミュニケーションスキルが求められるのは確かでしょう。
実際に、システムエンジニアの応募要項には決まって「コミュニケーション力」と書かれています。最近は、「話下手な人」や「積極的に発言するのが苦手な人」にシステムエンジニアはつとまらない」と考える人が増えているかもしれません。
これについて、ソルクシーズ のシステムエンジニアたちが「ちょっと待って！」とコメントしています。彼らが心配しているのは、「学生や若いエンジニアが、コミュニケーションについて誤解してしまうのではないか」ということ。ひとくちに「コミュニケーション」といっても、そこに含まれている意味は多種多様です。
最近は、採用する企業と転職希望者の間で、「コミュニケーション力」に関する捉え方に齟齬が生まれているケースもあるようです。例えばソルクシーズのAさんは、一見話し下手だけど優秀なシステムエンジニアは多いといっています。
「私も、今の仕事を始めるまでは『自分はコミュ障では？』と思っていました。実際に仕事を始めてみると、難しい仕事を黙々と進めてきちんと成果を出している人がまわりにいたりします。コミュニケーションに長けているほうがいいのはどんな仕事でも同じだけど、人と話すのが上手なことと自己主張が強いことをはき違えているような人もいるのではないでしょうか」
確かに、自分の意見を一方的に伝えるだけでは、コミュニケーションがうまいとはいえません。
「コミュ障」には、自己主張が苦手で引っ込み思案なタイプのほかに、自己主張が強すぎるタイプもあるといわれます。自分の意見を主張することに夢中になるあまり、人の話を聞けなかったり、周囲との関係構築が難しかったりすれば、業務に支障をきたす可能性もあるでしょう。
社会人のコミュニケーションは積極的に話せるだけでなく、聞き上手であることや、話のなかの大事なポイントを理解して的確に対応できることも重要です。
システムエンジニアの仕事は、クライアントワークやチームワークが基本です。一人の意見やアイデアだけで仕事が進んでいくシチュエーションはほとんどなく、常に対話が求められます。自己主張が苦手なタイプの人の方が、相手の考えを尊重して、周囲と協調しながらタスクをこなしていける場合もあるでしょう。
「学生の頃のコミュニケーションと、ビジネスの現場で必要なコミュニケーションは違うとわかるのも、大事なことだと思います」 というソルクシーズのBさんは、こんな話をしてくれました。
「学生の頃は、すぐに友達になれたり、大勢を仕切れたり、誰の前でも堂々と話せる人気者キャラが、コミュニケーションがうまい人のイメージだったのではないでしょうか。でも、これらは必ずしも仕事には必要ありません。友人のように親しくなる必要はなく、まとめる人よりまとめられる人が多いのが組織です。打ち合わせなど、仕事上のやりとりの基本は少数での会話です」
学生時代のコミュニケーションは、雑談や人間関係の構築といった限定的な領域に限られていました。仕事でもこれらのスキルが重要になるシーンはあるものの、より大切なのはプロジェクトを円滑に進める目的志向のコミュニケーションでしょう。
2人がいいたいのは、「自分はコミュニケーションが苦手だから無理と諦めてほしくない」ということです。学生時代からの延長で、「自分はコミュ障では？」と思い悩む必要はありません。
むしろ「コミュ障」を自覚しているということは、コミュニケーションスキルの不足に自ら気づいて、適切な努力を始められるということでもあります。コミュニケーションに苦手意識がある相手の気持ちに寄り添えるのも、強みといえるでしょう。
コミュニケーションスキルに限らず、現在の自分に不足している知識・スキルを補っていく課題解決型の思考は、システムエンジニアの適性ありといえます。「内向的」「人見知り」などと臆せず、少しずつ着実にスキルアップを図りましょう。
SEに求められるコミュニケーションスキルとは？
では、システムエンジニアに求められるコミュニケーションスキルとは具体的にどのようなものなのでしょうか。チームワークを円滑にするために重要なのは、コミュニケーションの基本ともいえる「報・連・相」です。
「チームプレー志向があって、情報共有や連絡・報告をしっかりできれば、口下手でも押しが弱くても大丈夫だと思います」（Aさん）
システム開発の現場では、チーム内で役割分担をして複数のタスクを同時並行で進めていきます。自分の抱えている業務が一段落ついたときや、進捗が芳しくないとき、トラブルが発生したときなどに迅速な情報共有を行うと、メンバー間での連携が取りやすくなります。
「伝える力」は、チームメンバーはもちろん、お客様とのコミュニケーションでも重要です。システムに詳しくない担当者に合わせて、わかりやすい言葉に置き換えたり、たとえ話や事例を用いて説明できたりすると、活躍の場が広がります。
コミュニケーションというと「会話」のイメージが強いですが、現場ではメール、チャット、仕様書、マニュアルなど文章によるコミュニケーションがメインです。書く力・読む力も、優秀なシステムエンジニアの重要な条件のひとつといえます。
いわゆる「コミュ障」が業務の妨げになるのは、当人にそのつもりがなくても、接触を避けるような振る舞いによって、「この人は自分に興味がない」「苦手意識を持たれている」「嫌われているのではないか」と誤解されてしまうケースです。
「話しているときは相手の目を見る」「表情が強張らないように笑顔を心がける」「質問されたことを確認しながら話す」といったちょっとした工夫でも、相手に与える印象は大きく変わります。
同時に求められるのが「聞く力」です。たとえば理解力は、システムエンジニアのあらゆる業務で必要になります。
「話がうまいことより、聞いて理解するのが早いことのほうが、チーム作業がスムーズになるケースが多いですよね」（Bさん）
仕事の際に対話をする相手が必ずしも話上手とは限りません。お客様が内心では不満・不安を抱えているのに気づかずにいると、後にトラブルに発展してしまうかもしれません。相手の言葉を表面的に受け取らず、裏にある意図を汲み取るスキルが重要です。
理解していることを表現するために、相づちやうなずきなどのリアクションをする「傾聴」も大切なスキルのひとつです。「話しやすい人」と思われることで、率直な意見を引き出しやすくなります。好印象を与えられれば、信頼関係の構築にもつながるでしょう。
同じ理由で、相手の言葉をさえぎらずに最後まで聞くことや、批判的な言葉をできるだけ控えることも大事です。意見が食い違うときも、頭ごなしに否定するのではなく、相手の意見のいいところを褒めたりしながら、受容的な態度を心がけることでコミュニケーションがスムーズになります。
相手から詳細な情報を引き出すうえでは「質問力」も欠かせません。プログラムやシステムは、目的や要件を取り違えると全体に影響を及ぼします。お客様がイメージしていることを具体的にできるか、認識の齟齬をなくせるかは、曖昧な部分を質問で深堀りしていくプロセスにかかっています。
会話の主導権を握るのは話す側と思われがちですが、実際に会話の方向性や内容・雰囲気などをコントロールするのは質問をする側です。的確な質問ができれば、理解度の向上や信頼関係の醸成とともに業務の効率化も図れます。
コミュニケーションスキルを身につけるためにできること
ここまでで紹介してきたようなコミュニケーションスキルは、日常的な訓練を重ねることで身につけることが可能です。最後に、コミュニケーションスキルの「具体的な訓練方法」を、現場で活躍するソルクシーズ社員の実践例とともに紹介していきます。
コミュニケーションスキルを高めるために最も重要になるのが「コミュニケーションの機会を増やす」ことです。
具体的には、「毎日誰かと話してその会話を振り返る」「異なる年齢層や背景をもつ人と積極的に会話する機会をつくる」「興味のあるサークルやボランティア活動に参加して、初対面の人との会話を増やす」といったあたりが日常に取り組みやすいかもしれません。
本を読んだりセミナーを受講したりしても、それだけでコミュニケーションが上達するわけではありません。課題を明確にして実践を重ねることが、スキルアップのいちばんの近道です。
そのうえで、まず「伝える力」を高める方法として挙げられていたのが「伝えたいことを箇条書きで整理してから話す・書く」というものです。コミュニケーションに苦手意識がある人のなかには、何をどのような順番で伝えたらいいかわからなくなり、混乱してしまうという人も多いのではないでしょうか。
アウトプットする前に、伝えたい内容と順番を明確にするクセをつけておくと、それだけで伝わり方が変わります。慣れてくると、書き出さなくても頭のなかで話を組み立てられるようになるでしょう。
また、表現力を高めるためには「感情を表す語彙を増やす」「声のトーンや速さを意識する」「動画撮影をして自分の話し方をチェックする」というやり方があります。
声や表情、身振り手振りなどの非言語コミュニケーションは相手に与える印象を大きく左右するポイントで、少し変えるだけでも表現力が一気に高まるでしょう。「優れたスピーカーやコミュニケーターの動画を観る」など、ロールモデルを決めて、真似から入るのも効果的です。
文章のスキルを高めるために、短い文章を毎日書く習慣をつくるのもよいでしょう。チャットやSNSも漫然と書くのではなく、どうすれば伝わりやすいかを意識するとテキストコミュニケーションの上達につながるはずです。
「聞く力」も、日々の会話のなかでスキルアップできます。具体的な訓練の方法として、「聞いて理解したことを『こういうこと？』と確認する」というものがあります。こうすると、相手からすぐにフィードバックが得られるため理解が進み、さらに自分の言葉で言い換えるプロセスを踏むことで、言語化する力も向上します。
相手の話を聞くときに心がけたいのは、「スマホやPC画面ではなく相手の目（顔）を見て話す」「うなずき・あいづち」「『なるほど』『それで？』など相手の話を引き出す言葉を使う」といった傾聴の姿勢です。
このほか「5W1Hで深掘りする質問を習慣化する」「会話の中で『具体的には？』と詳細を尋ねる習慣をつける」などまでできれば、かなり質問力はあがるでしょう。
このように、日々の会話で意識するだけでもコミュニケーションスキルは訓練できます。継続するなかで少しずつ成長が実感できるようになると、会話そのものが楽しくなり、より積極的にコミュニケーションを取ろうとするなど、好循環を作り出せるはずです。
以上、システムエンジニアに求められるコミュニケーションスキルや具体的な訓練方法を紹介しました。システムエンジニアとして活躍するうえで最も重要なのは、学生時代の延長線上にあるコミュニケーションスキルではありません。
お客様に喜んでいただけるシステムを創りたいという熱意、システム関連の新しい知識を常にインプットしようとする意欲、チームがうまくいくように配慮しながら確実に仕事を進められる力があれば、お客様やチームのメンバーから信頼されるシステムエンジニアになれるでしょう。
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※この記事は2017年09月12日に公開した記事を再編集しています
