デジタル技術を駆使して新たなビジネスモデルを創出する「デジタルトランスフォーメーション(DX)」は、企業が競争力を維持・強化するうえで重要なテーマとなっています。
経済産業省は、DXが進まなければ2025年以降、日本には国際競争への遅れによって最大で年間12兆円もの経済損失が生じる可能性があると警告しました。
少子高齢化による人材不足、市場のグローバル化、コロナ禍以降の新しい生活スタイルによって、消費者のニーズもビジネス環境も急激に変化しています。この状況に対応していくために、既存のビジネスモデルの変革は不可欠といえるでしょう。
このような背景もあり、日本企業でDXに着手している企業は全体の7割を超えており、着手予定の企業も合わせると87%と大多数がDXの重要性を意識しています。
しかし実際は、デジタル部門の設置やIT投資などの取り組みが積極的に行われてはいるものの、世界レベルで見ると、ビジネスモデルの変革につながっているケースはそれほど多くありません。
IMDが発表した2019年の「デジタル競争力ランキング」で、日本は23位。上位にランクインした欧米諸国はもちろん、韓国(10位)・台湾(13位)・中国(22位)など東アジア諸国からも遅れており、DX推進が進んでいるとはいえない状況です。
日本がDX推進において抱える課題には、どのようなものがあるのでしょうか。
日本のDX推進を遅らせている最大の要因は、既存システムの老朽化・複雑化・ブラックボックス化です。これによって、横断的で一貫性のあるデータ活用ができなくなるケースが多く、DXの実現を妨げています。
「既存システムの問題点を把握しきれていない」「経営者のコミットがない」「現場サイドの抵抗がある」「IT投資のための余裕がない」といった理由から、システムの刷新ができない企業は少なくありません。
このような状況を放置してしまうと、既存システムを維持・保守ができる人材が枯渇したり、セキュリティ上のリスクが高まったりします。さらに、ブラックボックス化したシステムを維持・保守するためのコストが高騰することで、経営を圧迫する可能性も上がります。
加えて、D&A(データアナリティクス)とDXを混合している企業が多いのも問題です。ガートナーの調査によると、両者を「明確に区別して取り組んでいる」と回答した国内企業は全体の14%にすぎず、約半数の企業がDXのなかにデータ利活用の取り組みを包括しています。
一方、世界に目を向けると、CDO(最高データ責任者)などの役職者が増加しており、データ利活用の取り組みに対する責任の所在が明確です。
D&Aで成果を出すためには、専門的なスキルの活用と、DX領域にとどまらないビジネス全体の横断的なデータ運用が欠かせません。ガートナーも、企業が成功するためにはCDOが必要であることを強調しています。
DX推進が話題になってから、ユーザー企業のIT人材採用が増えており、スペシャリストの不足も大きな課題です。経済産業省のDXレポートによると、IT人材の不足は深刻化する見通しで、2025年には最大で43万人に達すると予測されています。
この状況は、ITエンジニアにとっては「大きなチャンス」と取ることもできます。【後編】では、日本のDXの課題を踏まえ、具体的な解決策と今後求められている人物像を解説していきます。