「超高速大容量」「超低遅延」「多数同時接続」…通信の効率化や社会全体のデジタル化を促進するインフラとして期待された5Gは、利用者数やサービスの普及において当初予測より遅れが生じています。
そんななかで、通信事業者が提供する「パブリック5G」の弱点をカバーできる「ローカル5G」が急速に拡大しています。ローカル5Gは、企業・自治体などがローカルなエリア内に独自に構築する5G環境です。
ふたつの違いについて述べる前に、5Gを実現する方法について説明します。その方法には、SA(スタンドアローン)方式とNSA(ノン・スタンドアローン)方式の2種類があります。
SA方式は「ローカル5G」で主に採用されており、5G専用の設備を新たに構築することで通信を最適化できるのが特徴。これにより4.7GHz帯の「Sub6」や28GHz帯の「ミリ波」と呼ばれる高周波数帯が活用でき、大量の情報を伝送することが可能です。ただし高周波数帯の通信は障害物に電波を遮られやすく、広域をカバーすることはできません。
一方、「パブリック5G」で主に採用されているNSA方式では、4Gの既存設備を活用して制御信号のやりとりを行い、データ信号のやりとりのみ5Gを採用しています。周波数帯は700MHZ〜4.5GHz。ミリ波の周波数帯のSA方式と比べて障害物に邪魔されにくく、広範囲をカバーできるのが特徴です。
国内で展開されているスマートフォンは大部分がこのNSA方式を前提としているため、各通信キャリアが商用SAサービスを開始しつつあるものの、消費者向けは遅れをとっており、国内で利用されているモデルでは、ミリ波は非対応のものもあります。
2023年に総務省が発表した「電波の利用状況調査の結果(帯域ごとの5G基地局の整備状況)」でも、ミリ波帯の人口カバー率やミリ波帯で処理されるトラフィック量はほぼ0%(※1)。ミリ波帯がほとんど活用されていない実態が明らかになりました。低・中周波数帯を活用するNSA方式は、高周波数帯と比べて伝送できる情報量が大幅に少ないのが難点です。
そのためNSA方式を採用している「パブリック5G」では、5G本来の超高速大容量・超低遅延・多数同時接続といった特長を最大限に発揮することができません。基地局も4Gほど多くはないため、ユーザーが集中するエリアでは通信障害や通信速度の低下を招く場合があります。
結果として5Gを有効活用したサービス創出のモチベーションが発生しにくく、利用用途は4Gから大きく変化していないのが現状です。革新的なサービスが生まれないために、SA方式のエリア展開や、高周波数帯を前提としたデバイスの普及にもつながらないという悪循環が発生しています。
このような状況を背景に、いま注目を集めているのが「ローカル5G」です。
限定的なエリアにSA方式で展開するローカル5Gなら、「障害物に弱い」「カバー範囲が狭い」といった高周波数帯の弱みを補うことが可能です。利用者も従業員など関係者に絞られるため、より安定した通信環境を実現できるうえに、セキュリティ面の危険性もパブリック5Gほどには高くありません。
導入には総務省への免許申請が必要になるものの、高周波数帯の強みを最大限に活かしたさまざまなソリューションを企業・自治体主導で実現できます。現在はオフィス・工場・商業施設・公共施設など幅広い領域で、ローカル5Gを活用したDX推進が広がりつつあります。
たとえばAI・IoTは、「ローカル5G」との親和性が高い技術です。
製造業・物流業・農業分野では、カメラやセンサーで収集した工場・倉庫・農地内の膨大な情報を、AIがリアルタイムで監視・分析。オペレーションの改善や、機械・車両・ロボット・ドローンの自動化、機器トラブルの予防によって、生産性向上・コスト削減を実現できます。
同様の技術を被災地やガス漏れの現場といった危険区域での作業に応用すれば、ロボットの遠隔操作により、作業員の事故防止につなげることもできるでしょう。
2021〜2022年には総務省の開発実証として、大阪・関西万博の開催地に隣接する大阪港の夢洲コンテナターミナルに、ローカル5Gが設置されました。クレーンの遠隔操作やリアルタイムの映像伝送が可能になったことで、大幅なコスト削減が見込まれています。
医療分野では、カメラやスマートグラス・CT画像などから患者の情報を収集・共有する環境構築にローカル5Gが寄与しています。スムーズな情報共有が可能になったことで、オペレーションの改善や遠隔診療の実現につながりました。ローカル5Gの超高速・超低遅延の特性は、ロボットによる遠隔手術への活用も期待されています。
さまざまな業界でDXの推進に貢献するローカル5G。今後はパブリック5Gの弱点を補う通信規格として、さらに多くの企業に取り入れられる可能性が高いといえるでしょう。
2030年には6Gが登場するといわれていますが、「宇宙でも使える」「海上もカバー」「超拡張&大量接続」などと盛り上がっているということは、普及までに相当時間がかかりそうです。「月面で踊ってみた」というTikTokコンテンツに投げ銭が超高速で乱れ飛ぶのでしょうか…。
出典
※1
5G ビジネスデザインと新たな携帯電話用周波数の割当方式の検討について(4ページめ)
総務省
https://www.fmmc.or.jp/Portals/0/resources/ann/pdf/news/fmmcseminar_22w.pdf