経済産業省が2018年に発表した『DXレポート』のなかで警鐘を鳴らした「2025年の崖」。国内企業がDXを推進しないと業務効率・競争力の低下により、2025年には年間で最大約12兆円もの経済損失が発生するというシナリオでした。
2025年を迎えた今、「2025年の崖」はいよいよ現実問題としてわれわれの社会の重大なテーマとなっています。この記事ではそんな「2025年の崖」の現状をレポート。これからDXに取り組もうとする企業向けの施策についても解説していきます。
DXレポートで挙げられた「2025年の崖」における最大の課題のひとつが、老朽化したレガシーシステムです。
大企業・中堅企業の多くは、基幹システムやソフトウェアの体制が古く、DX推進の障害になっています。これらのレガシーシステムは、度重なるカスタマイズにより、複雑化・肥大化・ブラックボックス化しているケースも少なくありません。
これにより、「運用・保守が属人化」「多大な管理コスト」「IT環境の変化に対応できない」「セキュリティ面の脆弱性」といったリスクが発生。ビジネスの競争力の低下につながってしまいます。
IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が実施した調査(※1)によると、2022年には69.4%の企業が社内にレガシーシステムが残っていると回答。2023年には62.8%に減少したものの、依然として6割以上の企業がレガシーシステムを抱えており、「2025年の崖」問題から脱したとはいえない状況です。
この調査結果では、レガシーシステムの刷新を妨げている要因(※2)として、「他の案件に手一杯で十分な要員を割けない」(39.9%)、「ユーザーの既存システムの操作性へのこだわりを解消できない」(28.3%)、「レガシーシステム刷新に長けたプロジェクトリーダーがいない」(24.9%)、「ブラックボックス化によりレガシーシステムの解析が困難」(24.6%)、「レガシーシステムが肥大化し以降の影響度が想定できない」(22.5%)などが挙げられています。
また「IT人材育成の不足」も「2025年の崖」を語るうえで欠かせない課題のひとつです。経済産業省は前述のレポートの中で、2025年に国内で43万人のIT人材が不足すると試算していました。
IT人材の不足はデジタルシフトやシステム開発を停滞させ、既存のビジネスモデルの変革を妨げます。結果として人材が潤沢な企業とそうでない企業の差はますます開いてしまうでしょう。
前述のIPAの調査(※3)によると、DXを推進する人材量が「不足している」と回答した企業は2022年度の米国が22.6%だったのに対して、同年度の日本では全体の83.5%。さらに2023年度には85.7%に増加しており、人材不足の深刻化が顕在化しています。
人材の質が不足していると回答した日本企業も、2023年度には85.5%と多くを占め、2022年度の米国の45.1%と比べても大きな差が開いています。(※4)
このように、DXレポートが発表された2018年と比べても状況が好転したとは言い切れない現在。企業が国内外の競争力を維持するためにはどのような施策に取り組めばよいのでしょうか。
まず重要なのは、社内でDXを推進していくための具体的な計画を策定することです。その際には経済産業省が提供している「DX評価指標」、「自己診断フォーマット」などが参考になるでしょう。
特にレガシーシステムの刷新や、業務効率化のためのデジタルシフト、全社横断的なデータ活用は喫緊の課題のひとつです。自社の現状と問題点を洗い出したうえで、経営陣や現場からの理解を得ながら段階的に計画を実行していく必要があります。
IT人材の不足を補ううえでは、外部ベンダーなど、パートナーを活用するという方法もあります。クラウド・AI・IoTの導入や、データ活用・セキュリティの体制づくりを専門家に任せることで、スピーディーに社内のDXを進められるでしょう。
それと同時に、内製化のためのIT人材の確保も必須です。
外部のIT人材を確保するのが難しくなっている今、社内でいかに人材を育成できるかが、企業の明暗を分けるといっても過言ではありません。IPAの「人材の獲得・確保の方法」に関する調査でも、DXの成果が出ている企業と出ていない企業では「社内人材の育成」の比率に20%近い差が出ています。また、社内のキャリアサポートでは「日常での1on1の実施」「上司によるキャリア面談の実施」といった項目で、成果が出ている企業と出ていない企業の間に10%以上の開きがあります。(※5)(※6)
学習意欲の高い人材の採用や、従業員のリスキリング意欲を高める仕組みづくりは、事業・サービスの競争力を高めるうえで、最重要課題といえます。DXの経験がある人材や、高い技術がある専門人材を採用しにくい昨今は、「学習意欲やリーダーシップ、コミットメントを備えた優秀な未経験人材」をIT部門に集めるというような大胆な改革も検討すべきでしょう。
DXのプロジェクトに社内のリーダー候補をアサインし、事業・サービスまわりのアウトソースの比率を高めるという方法もあります。パートナーの技術者とともに働くことによって、社内の人材の知識・技術を高度化することが期待できます。
ソルクシーズは、銀行・証券・クレジットなど金融業界のDX支援の実績があります。レガシーシステムの刷新や新サービスの立ち上げ、既存サービスのリニューアルなどについてお悩みの方、新たなパートナー導入を検討している方は、ぜひご相談ください。
【数値根拠】
※1:IPA『DX動向2024データ集』 2-27. レガシーシステムの状況(経年変化およびDX取組状況別)
※2:IPA『DX動向2024データ集』 2-31. レガシーシステム刷新の課題(経年変化および米国との比較)-数値は2023年度調査の結果
※3:IPA『DX動向2024データ集』 3-3. DXを推進する人材の「量」の確保(経年変化および米国との比較)
※4:IPA『DX動向2024データ集』 3-7. DXを推進する人材の「質」の確保(経年変化および米国との比較)
※5:IPA『DX動向2024データ集』 3-12. DXを推進する人材の獲得・確保の方法(DX成果別)
※6:IPA『DX動向2024データ集』 3-20. DXを推進する人材が利用可能な社内のキャリアサポート(DX成果別)