2022年5月、経済産業省は日本や日本企業の雇用・人材育成に関するさまざまな課題の解決に向けて「未来人材ビジョン」を発表しました。
この未来人材ビジョンでは、現在の社会システムを出発点とした「2030年目線」と、未来の社会システムを前提とした「2050年目線」という2つの時間軸から、産業界・教育機関を変革するための大きな方向性と取り組むべき具体策が提示されています。
注目したいポイントは、「未来の人材」として、求められる人物像が具体的に明示されていること。ITによってイノベーションを起こしたい人、新たなサービスを考えたい人がリスキリングの方向を考えていくうえでも、必読といえるでしょう。
この記事では、未来人材ビジョンが提唱された背景を踏まえ、具体的な内容についてレポートしていきます。
背景にあるのは、AI・ロボットによる業務の自動化や脱炭素化などによる雇用の縮小や、生産年齢人口・外国人労働者の減少といった社会的な変化です。人口が減っても国際的な競争力を高めていくためには、付加価値創造に重点を置いた産業構造の変革や、雇用・人材育成、AI・ロボットとの共生のあり方などについての検討が必要です。
ここで語られているさまざまな施策が進められると、各産業を構成する職種のバランスや労働需要は、大きく変化していくことが予測されます。
未来人材ビジョンが想定する高成長シナリオによると、2050年には生産工程従事者、専門的・技術的職業従事者、サービス職業従事者、輸送・機械運転従事者といった新たな技術開発を担う職種は雇用が増加する一方で、AI・ロボットで代替しやすい販売、事務、建設・採掘、農林漁業などの雇用は減少していきます。
これに加えて、各業種の経営層を対象とした「求められる人物像」の調査では、基礎能力・高度な専門知識だけでなく、「常識や前提にとらわれず、ゼロからイチを生み出す能力」「夢中を手放さずひとつのことを掘り下げていく姿勢」「グローバルな社会課題を解決する意欲」「多様性を受容し他者と協働する能力」といった能力・姿勢が掲げられています。
2015年に需要が高かった「注意深さ・ミスがないこと」「責任感・まじめさ」「信頼感・誠実さ」「基本機能(読み、書き、計算、等)」などの能力から、ニーズが大幅に変化していくことがわかります。
しかし別の調査によると、「技術革新により必要となるスキル」と「現在の従業員のスキル」との間にギャップを認識していると答えた企業が43%、技術・スキルの陳腐化に不安を抱えているITエンジニアが47%と、求められる能力と現状との間に大きな差があるケースが散見されます。
抜本的な改革が求められる時代を目前にしながら、日本の企業の人材投資額や、社外学習・自己啓発を行っている人の割合は世界的に低水準です。日本の人材競争力ランキングは、年々順位が下がっており、2013年の27位から2021年は39位まで後退しました。
また、日本企業の従業員は他国と比べてエンゲージメントが低く、現在の勤務先で働き続けたい人が少ない一方で、転職・起業の意向をもつ人も少ないといったデータもあります。
これらは、氷山の一角。未来人材ビジョンには、これらの他にも日本の雇用・人材育成におけるさまざまな問題点が指摘されており、読み進めるうちに危機感が高まります。
課題解決の第一歩は、旧来の日本型雇用システムの見直し。「人を大切にする企業経営」「労働移動が円滑に行われる社会」という2つの軸から、ジョブ型雇用導入のガイドライン作成、兼業・副業の推進、リスキリングを活用したキャリアアップの促進といった施策が示されています。
同時に、教育システムの改善も重要な施策です。教育課程編成の弾力化、AI教材をはじめとするテクノロジーの導入、探求力の強化、インターンシップの積極的な活用など、産業界と教育機関が一体となった「好きなことに夢中になれる教育」への転換が必要です。
日本の未来を考えれば、ポジティブな変革ではあるものの、優秀な若手の突き上げを受けるベテランのシステムエンジニアは、企業における大きな価値転換に対応しなければなりません。これからのビジネスシーンで求められる力をしっかり把握したうえで、「自らの未来ビジョン」を考えていきましょう。