人間の能力の可能性を広げるテクノロジーとして注目が集まっている「人間拡張」について、【前編】【後編】の2回にわたり紹介しています。【前編】では人間拡張の概要をふまえて、具体的な研究領域として「身体拡張」「知覚拡張」について紹介しました。
【後編】では引き続き、人間拡張の最新の研究領域や課題について深堀りをしていきます。
最初に紹介したいのが、「IoA(インターネット・オブ・アビリティズ)」。ウェアラブル端末をはじめとするさまざまな装置を利用して、人間をインターネットに接続する技術です。
IoAを使えば、メガネ型のデバイスから情報収集ができたり、ウェアラブル端末が察知したデータをもとにAIを用いた健康管理を受けられたりするなど、スマートフォンよりもさらに利便性の高いインターフェースが利用できるようになります。
さらに近年では、頭蓋骨に小型装置を埋め込むBMI(Brain Machine Interface)の開発も進められています。人間の思考をインターネットやAIに直結することで、考えただけでスマートフォンや家電を操作したり、情報収集を行えたりするのが魅力です。
「存在拡張」の領域では、人間とロボットの融合も注目されています。
移動型ロボットのモニターに、遠隔から人の顔を映し出すことで、現地にいなくてもリアルタイムでコミュニケーションや仕事を行えます。アバターロボットが動きを代替するため、実際にその人がいるような存在感を演出できるそうです。
接客業・介護・リハビリなどに導入されれば、少子高齢化により懸念される労働者の負担を軽減することにもつながるでしょう。
人間とAI・ロボットだけでなく、インターネットを介した「人間同士のつながり」についても、さまざまな研究が行われています。
例えば、人間の動作をデータとして蓄積できる装置。対になる駆動装置を装着した人が、まったく同じ動作を再現できるようになる技術です。これによりスキルを共有する新たなビジネスモデルが生まれたり、熟練を要する技術の後継者不足解消に役立ったりするのではないでしょうか。
「JackIn Head」という、頭部に装着することで他者の視点を体験できるデバイスも開発されています。最終的に人間の思考までもがインターネットに接続されるようになれば、人間同士がテレパシーのように意思疎通できる未来も訪れるかもしれません。
このように、過去にはSFだったことが実現しそうな人間拡張のテクノロジー。AR/VR領域を中心とした国内の市場規模は2020年時点で6,453億円にも及び、2025年には1兆円を突破すると予測されています。
しかし人間とAI・ロボットとの境界が曖昧になることで、新たな問題が浮上する可能性もあります。
個人の情報をどこまで共有可能にするのか、法律でどのように規制をするのか、テクノロジーによって制御された感情・認知・人格は果たして当人のものといえるのか。
脳にデバイスを埋め込むBMIについても紹介しましたが、人間と機械の融合が倫理的にどのレベルまで許されるのかは、議論の余地があります。人間拡張が生み出すワクワクするような、でもちょっと恐いような未来から、今後も目が離せません。