2020年にガートナーが選ぶ戦略的テクノロジー・トレンドのトップ10に選出されるなど、注目が集まっている「人間拡張」。
2017年ごろから頻繁に語られるようになったこのテーマについて、「聞いたことがある」という方が多いのではないでしょうか。
あまりにもインパクトがある言葉なので、「いつかサイボーグにされてしまうのでは?」と恐怖を抱いて…いえいえ、そんな話ではありません。人間拡張は、人間の能力の可能性を広げることで、現代社会のさまざまな問題解決に寄与する技術なのです。
今回は、人間拡張の定義や研究領域について、【前編】【後編】の2回にわたり解説していきます。
そもそも人間拡張とは、さまざまなテクノロジーを使って、人間の能力を補ったり強化したりする技術の総称です。拡張可能な能力として、以下の4つが挙げられることが多く、今後のテクノロジーの発展によっては、領域が広がっていく可能性もあります。
- 身体拡張:運動能力を強化する
- 知覚拡張:視覚・聴覚などを拡張する
- 存在拡張:遠隔での作業・コミュニケーションを可能にする
- 認知拡張:人間の学習・理解に関わる
このうち「身体拡張」の技術による貢献が期待されているのが、「高齢者・障がい者支援」の領域です。
既にさまざまな企業が製品化している「パワーアシストスーツ」は、重いものを持ち上げたり運搬したりする際に装着することで、腰・腕などにかかる負担を小さくすることができます。
介護・リハビリ・医療などの現場に導入されれば、労働者と被介助者の身体的な負担軽減が期待できるでしょう。加えて、弱まった握力を増強するなど、体の部位ごとの能力を補完するデバイスの研究も進んでいます。
パーキンソン病の人向けに開発された食器は、スタビライゼーションを利用して手の震えを相殺。人間の幸福につながる「自己効力感」を妨げないようにするべく、自分の手で食事をするという体験を重視した支援のあり方が追求されています。
「知覚拡張」の領域で注目されているのはは、VRゴーグルを装着したゲーム体験・映像体験・メタバースなど。既になじみがある人も多いかもしれません。
さらなる発展形として、VR技術を活用してスポーツなどの能力向上を実現するという研究も始まっています。VRテニスコートの実験は、バーチャル空間に現実と同じ大きさのテニスコートを作ってボールを打ち返す練習をするというものです。
視覚情報はもちろん、ラケットを振る感覚まで再現されるうえに、ボールのスピードもコントロールすることができ、効率よくスキルアップできるようになります。
また、モノをインターネットにつなげるIoTの人間拡張版として、注目されているのが「IoA」。人間がインターネットにつながることで、能力を拡張する技術です。
続く後編では、このIoAの技術を活用したロボット・AIとの融合、五感の共有など、さらにディープな人間拡張の世界に踏み込んでいきます。ぜひ併せてチェックしてみてください。