【情シス野郎 チラシの裏】は、「情報処理安全確保支援士」資格を持つ情シス担当が、仕事や自らの体験を通して得た知識や技術を、技術面に詳しくない人でも読みやすいよう「チラシの裏」に書くかのごとく書き散らす!というシリーズです。
******
先日、野球版ワールドカップとも言えるワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が、ベネズエラの初優勝で幕を閉じた。
40年ほど埼玉の某山奥球団を推し続け、ペナントレースもネットで欠かさず観るくらいには野球好きなのだが、正直なところ開幕前はWBCにあまり関心がなかった。
しかし、開幕数日前にB’zが名曲「タッチ」を歌い上げている動画を観た瞬間にスイッチが入り、気づけば日本の試合は全てビール片手に観戦していた。

残念ながら侍ジャパンは準々決勝で敗退したが、今回のWBCでは、日本のプロ野球では未導入の仕組みやルールがMLB(メジャーリーグベースボール)準拠で採用された。
特にプレーへの影響が大きかったのは、「ピッチクロック」と「ピッチコム」である。
この2つにより、投球間隔は明らかに短縮され、スムーズに試合は進行し、ストレスを感じる場面が少なかった。
ピッチクロックは「投手は15秒(走者ありでは18秒)以内に投球しなければ1ボール扱いになる」というルールである。そして、それを実現するためにセットで採用されたピッチコムは平たく言えば「バッテリー間のサイン交換装置」である。
ピッチコムを導入していないNPB(日本野球機構)の試合では、捕手が指でサインを出す。捕手が出した2回程度の指の組合せから、投手は球種とコースを理解し、納得すればうなずいて投球動作に入る。
しかしサイン盗み対策のため、同じサインが必ずしも同じ意味を示すとは限らない。投手やカウント、イニング、出塁状況などによって意味が変わるよう、複雑性を持たせている。
また捕手のサインは球種とコースだけにとどまらない。
・投手にあえて首を振らせるだけのサイン(打者を惑わす目的)
・走者へのけん制球を指示するサイン
・通常は行わない、例えば走者一・二塁で一塁けん制で刺しにいく、内野手を含めた一撃必殺のサインプレー
など、多岐にわたる。

NPBの試合ではサイン違いにより捕手が取り損ねるシーンがまれによくあるが、プロの世界でそんなミスが発生する理由は、状況に応じて変わる複雑なサインのやり取りが原因である。サイン違いを防ぐために出し直しを要求し、結果として時間がかかることもある。
こうしたサインミスを防ぎ、投球間隔を短縮するための装置が「ピッチコム」である。
ピッチコムは、テンキーのような9個のボタンが付いたウェアラブル端末である。サインを出す捕手は膝に巻くように装着し、サインを受ける投手や一部野手は耳元に受信器を装着する。
ボタンは最大3回まで押すことができ、捕手が球種とコースを指定すると、相手チームに解読されないために暗号化されたデータが無線で送られる。受信側では音声で「外角低めスライダー」のように指示がされる。
さらに、プレートを外せ、けん制しろ、ボール気味に、ストライクゾーン内に、など球種やコースに限らない細かい指示も可能である。
サインミスのリスクを限りなくゼロに抑えつつ、外野手のように遠くてサインが見えない野手にも共有できる。しかも観る側にストレスを感じさせないスムーズな試合運びを実現する、一石三鳥の仕組みである。
野球はストライクゾーンやハーフスイング、クロスプレー、ライン上の打球判定など、ミリ単位・コンマ数秒の判定結果が勝敗に直結する。そのため、ITを活用することで「正しい」結果を得られる余地が非常に大きいスポーツである。
一方で、際どい判定を表現する審判の大げさなジェスチャーや、それに対して選手や監督で抗議する様子、最近はめっきり減ったが時には乱闘などの人間臭さも、興行の一要素であるとおれは思う。
WBCやオリンピックのような数年に1回の大会は全てにおいて「正しさ」を追求する意義もあると思うが、日々行われるファンあってのプロ野球興行においては、盛り下げる要素になりかねない。
現在はクロスプレーなど一部のプレーに限定し、回数制限を設けてリプレイ検証をリクエストする制度も確立している。
判定を覆すに足る映像がある場合にのみ結果が変わるこの制度は、審判を尊重して権威を保ちながらも、際どいプレーをさらに盛り上げる効果もあり、選手や観客の納得感も得られる素晴らしい仕組みだと思う。
しかし、人がプレーし、人が判定する競技を「正しさ」に寄せすぎると、興ざめしてしまう。極論を言えば、ITを用いれば投手や打者のあらゆるデータを蓄積し、AIが采配や配球することすら可能である。
データに基づいて配球した結果だから仕方ない、と納得を強制させられる野球を観たいかと問われれば、おれの答えはNOである。


